《終章 共鳴する未来へ》
春の朝、桜咲学園の丘には新しい風が吹いていた。
枝先にはまだ蕾のままの花が、淡い光を宿して揺れている。
桐生ひよりは丘の上に立ち、手の中のノートを開いた。
その最後のページに書かれた新しい一文——
『桜魂、第九の共鳴者、風と共に歩む。』
それは、彼女自身の文字だった。
筆跡はまだ震えているが、そこに宿る意志は確かだ。
久遠朝臣が隣に立ち、静かに空を見上げる。
「ようやく……時が、巡ったな。」
「はい。」
ひよりは頷く。
「これで、本当に……すべての魂が安らげますか?」
「安らぐ、というより——融け合うんだ。」
朝臣は穏やかに微笑む。
「過去も、現在も、未来も。
すべてが同じ花弁のように、ひとつの円環を描く。」
彼の掌に、光る桜の花びらが落ちた。
それは生きた証でもあり、記憶の結晶でもある。
ひよりはノートを閉じ、深呼吸をした。
桜の香りが満ちる中で、彼女の髪が淡い光を帯びる。
「……これからは、私が紡ぐ番ですね。」
朝臣は小さく頷き、微笑む。
「君の声が、新しい“桜魂”を呼び起こすだろう。」
その瞬間、空が淡い紅色に染まった。
桜の花が一斉に開き、風が丘を包む。
無数の花びらが舞い上がり、空にひとつの文様を描く。
それは円環でもあり、光の螺旋でもあった。
——過去と未来をつなぐ、約束の印。
ひよりは目を閉じ、祈るように呟く。
「みんな、見ていてね。私は……この世界を咲かせてみせる。」
彼女の言葉に呼応するように、桜の木の根元から光が立ち上がる。
その光の中に、朋広の姿が一瞬だけ見えた。
穏やかな笑顔のまま、風と共に消えていく。
ひよりは涙を浮かべながら微笑んだ。
「ありがとう。——そして、さようなら。」
丘の上に、風が吹く。
新しい季節が、静かに始まった。
桜魂——それは決して終わりではなく、
魂が永遠に共鳴し続ける“始まり”の詩だった。
風が残した最後の囁きは、ひよりの胸に届く。
『咲け、未来を。』




