《第二章 第4話 原初、再臨》
桐生ひよりの夢は、その夜も続いていた。
けれども、今度は誰かの記憶を覗くような、異様な“現実感”があった。
——桜が舞い散る古の丘。
一人の青年が立っている。
その瞳は深い闇のようでいて、同時に春の光を宿していた。
「久遠……朝臣?」
声を出した瞬間、彼はゆっくりと振り返った。
だが、その顔はどこか違っていた。
まるで幾千の時を生きてきた誰か——原初の“桜魂”そのもののように。
『ようやく、ここまで来たか。ひより。』
「あなた……“原初”なの?」
青年は頷くと、静かに言葉を紡ぐ。
『我は、桜魂のはじまり。
そして——終わりの姿でもある。
八代にわたる継承の果てに、お前が最後の魂をつなぐ者となる。』
その声は、まるですべての時代を重ね合わせた響きだった。
ひよりの中に、朋広や葵、紅葉の記憶が流れ込んでくる。
彼らの想いが、彼女の胸で溶け合い、鼓動を刻む。
「私が……みんなの続きを生きるの?」
『いいや、ひより。お前は“再生”の始まりを生きる。
この時代を選び、己の意志で花を咲かせる者だ。』
ひよりの視界が、ゆっくりと崩れていく。
桜の花弁が光に変わり、原初の姿が淡く滲んだ。
『この世界はまだ終わらない。
だが、もう一度——選びなおす時が来た。
“誰のために、咲くのか”を。』
——ぱちり。
目が覚めた。
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
夢のはずなのに、胸の奥が熱い。
制服のポケットに手を入れると、昨日砕けたはずの護符がそこにあった。
しかも、中央には新しい文様が刻まれていた。
《再臨/Re:Bloom》
ひよりは立ち上がる。
時計の針は、奇妙に遅れていた。
まるで時間そのものが彼女の覚醒を待っていたかのように。
窓の外、桜の枝の上に一羽の小鳥がとまっている。
どこか懐かしい鳴き声。
それは——原初が昔、桜の丘で聞いたあの音と同じだった。
ひよりの唇が、静かに動く。
「——始めよう。桜魂、最後の継承を。」
そして、風が吹いた。
桜が舞い、時が再びほどけていく。
過去も未来も、ひとつに溶け合いながら。
そのすべての中心で、桐生ひよりが目を閉じた。
——桜魂、Re:Bloom。




