《第二章 第2話 久遠の血脈、目醒めの兆し》
朝の光が差し込む教室。
桐生ひよりはぼんやりと黒板を見つめていた。
昨夜の夢が、まだ瞼の裏に焼きついている。
桜乃という名、そして「終わらせる者」という言葉。
それが、何を意味するのか。
「桐生さん、体調悪いの?」
隣の席の少女が心配そうに声をかけた。
ひよりは小さく笑って首を振る。
「ううん、ちょっと寝不足なだけ。」
だが、心の奥ではざわめきが止まらなかった。
机の中にしまってある護符が、微かに震えている。
まるで、彼女の意識に呼応するように。
放課後、ひよりは校舎裏の古い桜の木の下へ向かった。
そこは、八代目・朋広がかつて立っていたとされる場所——
伝承の始まりの地。
枝に触れた瞬間、風が巻き起こる。
ひよりの髪が舞い、空気が変わった。
「……桜乃?」
——声がした。
どこからともなく、透明な声が。
『その名を呼ぶのは、久しぶりね。』
振り返ると、そこに一人の青年が立っていた。
淡い銀の髪、眼差しはどこか遠い過去を見ているようだった。
「あなたは……?」
『久遠 朝臣。久遠家の初代を継ぐ者……いや、影だけが残った“記録”のようなものだ。』
その名を聞いた瞬間、ひよりの胸の奥で何かが震えた。
朋広の血を受け継ぐ者として、避けては通れない存在。
「あなたも……桜魂なの?」
『かつては、そうだった。だが私はもう“魂”ではない。
君たちが積み上げた歴史の中で、消えた概念にすぎない。』
風が止み、花びらが静かに地面に降り積もる。
その中で、久遠朝臣は静かに微笑んだ。
『桐生ひより。君は“終焉”を継ぐ者だ。
しかし——終わりの先に、新しい桜を咲かせることもできる。』
「私に……できるの?」
朝臣は一歩、近づいた。
その瞳は冷たくも優しい。
『できるさ。君が“彼”と出会うなら。
彼こそ、桜魂最後の鍵——』
次の瞬間、風が逆流し、桜の花が光に溶けた。
ひよりは目を見開いたまま立ち尽くす。
「彼……って、誰……?」
返事はなかった。
ただ、風の中でひとひらの花弁が、彼女の手のひらに落ちていた。
それは——朋広の時代から受け継がれた、“記憶の桜”。




