《第二章 序章 桐生ひより ― 桜の記憶を継ぐ少女 ―》
風が止まる。
桜咲学園の中庭、朝の光に染まる花弁の間で、ひよりは一人、佇んでいた。
彼女の掌の上で、金色の花びらが淡く光を放ち、やがて溶けるように消える。
「……継がれた、んだね。」
小さく呟いた声は、どこか寂しく、それでいて確かな決意を帯びていた。
ひよりの記憶の奥底で、何かが揺れている。
それは夢のようで、けれど確かな残響。
——誰かが、自分に何かを託した。
空を見上げると、風が再び流れ出す。
桜の花が舞う。
光の粒が、まるで導くように学園の奥へと誘っていた。
その瞬間、彼女の心に微かな声が響く。
——「桜を守れ。魂を繋げ。」
胸が熱くなる。
ひよりは制服の胸元をぎゅっと握りしめた。
その下には、久遠朝臣から受け取った小さな護符がある。
桜の紋が刻まれた銀色のペンダント。
「……約束する。私が守る。」
ひよりの瞳が、決意の光を宿した。
その瞬間、桜の木の根元に、淡い光の輪が広がり始めた。
——時間が、再び動き出す。
遠くの空で、雷鳴が小さく鳴る。
季節外れの嵐の予兆。
桜が散るように、何かが崩れ、何かが生まれようとしていた。
その中心に、ひよりは立っていた。
それは、“八代目”の継承の始まり。
そして——
“桜魂”の新たな輪廻の扉が、今、音を立てて開かれた。




