表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

なんか奴隷じゃないっぽい

馬車が走り出すと、窓にかけられた厚布が揺れ、外の光は完全に遮られた。

中は昼間とは思えぬほど暗く、わずかな燭台の光が赤い影を壁に揺らめかせている。


向かいに座る侯爵は、脚を組み、俺をじっと見つめていた。

だけど、さっきみたいな鋭さはなく、むしろ幼い子を安心させるような柔らかさがあった。


「怖いかい?」


低く温かい声に、思わず唇を噛んでうなずいた。

いや、普通に怖いんだろ。

けど、それよりアンナのことが気になって仕方ない。ああ、今すぐでもこの馬車から逃げ出したい。


「それでいい。恐れを持つ者の方が、強くなれるからね」

侯爵は穏やかに続けた。

「さて、ここから先、君は第一王子管轄の別棟で過ごす。王権交代に備えるため人材が必要でね」


「……人材……?」

意味がすぐには飲み込めない、っていうか、人材って言われても...アンナに早く会いたいんですが?

ここで選ばれたとか言われても……ねぇ?


「第一王子アドリアン様は、今、魔法の才を持つ若者を各地から集めておられる。

血筋や身分に関係なく、優れた者を育てるのだ。

君のその眼――"有星眼〈アステルアイ〉"は、魔法適性が非常に強い証拠だ。

君もまた、『未来の騎士』候補者なのだよ」


胸の奥で何かが弾けた。

奴隷として売られ、価値を奪われた自分に、そんな言葉が向けられるなんて思ってなかった。

つまり、このおっさんについていけば強くなれるってことか?


膝の上で拳を握り、小さく息を吐いた。

「……強くなれますか?」


侯爵は微笑んだ。

「勿論だ。

アドリアン様は才ある者を見出し、育てることを望んでおられる。

君が誰かを守りたいと思うなら――その力を使えばいい」


“守りたい人”という言葉に、胸が痛む。

あの日握り返した小さな手。

「お兄ちゃん、寒いよ」

――その声が、今も耳の奥に焼きついている。


あの時アンナを守れていない。救えてない。


侯爵の声が遠くなり、代わりに心の奥で誓いが生まれた。

(必ず……アンナをもう一度抱きしめる。今度こそ、助けるんだ)


その瞬間、侯爵がパチンと指を鳴らし窓の厚布をすべて開けさせた。

眩い光が一気に流れ込み、思わず目を細める。


外の光景は、これまで見ていた街とは全く違った。

空に伸びる高い塔から薄青い光が降り注ぎ、石畳には浮遊する灯。

人々は魔法で宙を滑る台車に乗って移動している。


「ようこそ、魔法都市セレスティアへ。

君が新たな人生を歩む場所だ」


――新たな人生。

この先には何が待っているのだろう。 

いや、何が待っていようが構わない。全部糧にして強くなってやる!

アンナにまた会うその日までーー!!



***



程なくして馬車が止まり、白い石造りの屋敷が見えてきた。

花が咲く庭、子どもたちの笑い声。

その明るさに、かえって胸が締めつけられる。


(ここが別棟...?ただの孤児院じゃん)


中に入ると、焼きたてのパンの匂い。

壁には子供達の絵が飾られていた。


「お待ちしておりました、マルヴィス侯爵閣下」


現れたのは黒いベストスーツを着た男。

艶やかな黒髪に深紅の瞳。

白い顔には穏やかな微笑を浮かべている。

その尖った耳を見るに恐らく魔族というやつだろう。

馬車から見てる時も思ったが王都には多種族がいるみたいだ。


「新しく来たルーカスですね。話は聞いております。戸惑うこともあるでしょうが、私が常に傍にいるので頼ってくださいね」

突然話しかけてきてびっくりした。

けど、その声が優しくて、少しだけ安堵する。


その後、侯爵は城に戻り、俺はそのままカルマさんに奥の部屋に連れて行かれた。


そこには5、6人の子供たちがいた。


何をすればいいのかわからずキョロキョロしていると、カルマさんは横に立ちそこにいる子供達を集めた。


「皆さんこちらは今日からここに住むことになったルーカスです。私はお城の方に用がありますので、皆さんで棟内を案内してあげてくださいね。」


そう言ってカルマさんがフッと消えるやいなや子供たちは口々に喋り出した。


「新しい子だ!」

「ほんとだ! また来たの!?」

「名前なに? どっから来た?」


あっという間に、俺のまわりを子どもたちが取り囲む。

年の近い子もいれば、まだ3つか4つくらいの小さい子もいる。

服はみんなお揃いのシルクのブラウスだが、着崩したりしている子もちらほらいる。


「えっ、ちょっと待って……」

ルーカスがたじろぐ間に、黒髪の帽子を被った少年が勢いよく肩を叩いてきた。

「おれユリオ! なんかわからないことあったらおれに聞けよ!」

「ユリオも先週入ったばっかり」

振り向くと横に小柄な女の子がいた。

「ミラうるせえ!」

「真実」


そんな言い合いをしていると、奥からおたまを片手にした年上の少女が顔を出した。

「もう!ルーカスはまだ来たばっかで慣れてないんだから。」

その少女は腕まくりをしてエプロンをつけていた。

「わたしはエレナ。ここでは年上組だから頼ってね」

「エレナ〜、スープ焦げちゃうー!」

「え!待って、とめてとめて!」


あちこちから笑いが上がる。

俺は圧倒されながらも、少しずつ頬が緩んでいくのを感じた。

もう、新しく来た仲間として見てくれているのが嬉しかった。


「案内してやる!」

ユリオに強引に手を引かれ、ミラが後ろからついてきていた。

「こっちが訓練場! あっちはリビング! 

で、外に出たら庭があって、夜は星がめっちゃ見えるんだ!」

「ユリオが木登りして落ちたのもそこ」

「それ言うなって!」


廊下には小さな足音が響き、窓の外では小さな白い鳥が飛んでいた。

ユリオたちは廊下の突き当たり近くなってUターンしようとするがまだ紹介されてない部屋があった。


「なぁ、あそこの部屋は?」

俺が指さすと、ユリオがちょっと間を置いてから答えた。

「あれは……アメリアの部屋だよ。ほとんど出てこないし、入るのもカルマさんかアルスぐらいだな」

「ふーん……そうなんだ」

俺はその秘密めいた部屋に好奇心がくすぐられた。


そこを後にして次は寝室に向かう。

男女で分かれた2つの広い部屋にはベッドがぎっしりと並び、ベッド脇には手作りのぬいぐるみや小瓶が置かれている。


「ルーカスのベッドはここだ!」

短剣の置かれたベットの横が俺の新しい寝床らしい。

「今夜からここで寝る。枕の下に石が入ってたら、ユリオのイタズラ」

「ちょ、バラすなって!」


笑い声がまた弾けていた。

そうこうしてるうちに、夕食の鐘が鳴った。

食堂には長い木のテーブルが並び、全員がそこに座る。

皿の上には野菜のスープと焼いた魚、そして山盛りのパン。

誰かが「もうちょっと取ってー!」と叫ぶと、別の子が「順番!」と言い返している。


横ではユリオがスープをこぼして慌てていて、エレナが笑いながらナプキンを渡している。

ミラは鍋に何か怪しいものを入れようとして怒られていた。


にぎやかで、うるさくて、でもどこか心地いい。

ルーカスはスプーンを握ったまま、少しだけ目を伏せる。


あたたかい――そう思った瞬間、胸の奥が痛んだ。

アンナ......。

守ると誓ったアンナを置いて俺だけがが幸せになろうとしているのか?ここで強くなるって決めたのに!

今まで考えまいと思って蓋をしていた不安がどっと押し寄せてきた。

病気は?治ったのか?あのままどうなったんだ...。

治ったとしてもまだ幼いのに一人でどうやって生きていくんだ?

危ない仕事をし出したらどうしよう。


はぁ、今は誰かが見つけて助けてくれていることを祈るしかない。

不甲斐ないお兄ちゃんで本当にごめんな、アンナ。

 

笑い声と食器の音で再び現実に引き戻される。

気がつくとパンの山はみるみる減って、スープ鍋は底が見え始めていた。


「エレナ〜、スープもうない!」

「ないじゃなくて、みんなが早すぎるの!」

「ユリオが三回おかわりしてるー!」

「おまえだって二回だろ!」


そんな騒ぎの中、突然玄関の扉ががたんと開いた。

外の夜風がひゅうと吹き込み、ランプの炎がわずかに揺れる。


そこには銀の光をまとった少年が静かに立っていた。

別棟は第一王子管轄領地の森の近くにあります。

庭はとても広いし、別棟内も普通の孤児院よりも大きいです。

別棟にはカルマ以外の大人はいません。

なので子供達が積極的に手伝ってはいますが家事、育児、別棟関連の管理全般を全てカルマ1人でやっています。

労基が通用しない世界線ですね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ