なんか知らんおっさんに買われたんだが
目の前に広がるのは、高い石造りの城壁と、がなり声を上げる商人たちの群れ。
空気は埃っぽく、金の匂いがする。つまり、ろくな場所じゃない。
「……ここが、奴隷市場……」
自分で言って、ちょっと震えた。
いや、正直めっちゃ震えてる。
だってここ、人間が“値札付き”で並ぶ地獄市だぞ。
しかも俺もその対象。笑えない。
隣のラシェルが小刻みに震えているのを見て、反射的にその手を握る。
「大丈夫。一緒にいるから」
……って言いながら、心の中で泣いてる。
アンナ、お兄ちゃん今からお前の好きなリンゴみたいに棚に並んでられるよ。
ラシェルは一瞬だけ微笑んでくれた。
その笑顔がちょっとだけアンナに似てて、胸が痛くなる。
いや、違う。可愛いけどアンナほどじゃない。
死んでもアンナ一筋だ俺は。
「真っ直ぐ歩け! 下を向くな!」
怒鳴り声が響き、慌てて姿勢を直す。
アンナに『背筋はピン!だよお兄ちゃん‼︎』って叩き込まれたおかげで、反射的に背が伸びた。
……うん、こんなとこで役に立つとは思わなかった。
アンナの教えは素晴らしい。
やはり何かしらを司る神なのだろうか。
そんなことを熟考してるうちに巨大な鉄門の向こうには、薄暗い建物が見えてきた。
中からは、鉄と汗と絶望のにおい。
人生で一番入りたくないドア、ランキング第一位だ。
二位と三位は何なのとか野暮なことは聞かないでくれ。
中に入ると中央には檻が並び、人がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
スマイル無しの値札付きで。
“人間”じゃなく、“商品”として。
「次、坊主たちだ!」
荒い声に押され、ラシェルと前に出る。
「……ふむ、お前リストにいた奴か。もう買い手が決まってるから奥の部屋に連れてけ」
「でこっちは……“有星眼”か。あの方に知らせろ!」
「ちょ、ラシェル!?」
兵がラシェルを引きずっていく。
腕を掴まれて涙目で手を伸ばしてきた。
助けようとしたけど――俺も背中を押され、別の部屋へ突っ込まれた。
……あぁ、クソ。
アンナなら絶対こんな時、身を挺してでも助けに行くのに。
俺はそれが出来ない。心が弱いから。
……アンナにこんな姿見せたくない。
⸻
部屋に入ると、湿ったレンガ、すすけた空気、遠くから嗚咽を押し寄せてきた。
部屋の片隅でエルフの少女が母親を呼んで泣いていた。
俺も泣きそうになるけど、代わりに掌を見つめた。
「アクア・フロー」
そう小声で呟くと掌の上に歪な形の水球が生成される。
自分の中にあるおそらく魔力というのの流れを意識しながら......よし、コツは掴んできた。
前みたいにならないように流す魔力を抑えて......
――ガチャリ。
扉の鍵が回った。
やばっ、魔法使用バレた!?
慌てて水を握りつぶし、しれっと床を見る。
大丈夫、俺今めっちゃ“何もしてない感”出てるはず。
「おい、そこのガキ。ついて来い」
え、早くね?まだ一晩しかいてないて。
そう思いながら俺は渋々立ち上がり、暗い通路を歩く。
檻の中から助けを求める声が響くけど、俺には何もできない。
……でも、覚えてろ。いつか絶対、この手でアンナを――いや、アンナの笑顔を守れるぐらい強くなってやる。
階段を下りた先には、やけに豪華な扉。
なんか、“金持ちの悪趣味”って感じがすごいな。
商人が小声でなんか言ってきた。
「よかったな。貴族様が、お前を気に入ったらしい。精々可愛がられるように媚びるんだな」
媚びろって、俺は猫か。
いや、媚びるのは猫より犬か?まぁどっちでもいい。
扉が開くと、天井の高い部屋、漆の床、金糸の絨毯。
煌めく水晶灯が、地上よりも明るい光を放っている。
奥の椅子には宝石を散りばめた衣を纏ういかにも上級貴族の太ったおっさんが座っている。
「ふむ……健康そうだな」
その太い指が、頬から首筋にすべる。
ぞわり。やめろ。ほんとやめろ。
俺はいくら貧しくても貞操は守ってきたんだから‼︎
すると商人が媚びた声を出した。
「こちら、届いたばかりの品でございます。侯爵様が“有星眼”をお探しとのことでしたので……」
……“品”。
あぁ、そうか。俺、もう人間じゃなくなったんだな。
だけど、俺の心の中にはまだアンナがいる。
アンナが「お兄ちゃん大好き」って笑ってくれた、その記憶が......多分あったはず!!
だから――
どんな目に遭っても、生き延びる。
この手でアンナをもう一度抱きしめるまで死ねない。
その後別室で貴族用の服に着せ替えられ、手を引かれて通路を抜けると外の光が見えてきた。
黒漆の馬車、金の紋章、四頭の白馬。
その後ろに格子窓付きの奴隷馬車。
商人が俺を小さい方に押し込もうとしていると
「こっちに乗せろ」
上品で冷たい声後ろからした。
「ですが、侯爵様――」
「なんだ? それはおまえの“物”なのか?」
「滅相もございません!!」
商人が即土下座。すごい無駄な動きがなかったぞ。
そうこうしてるうちに俺は黒漆の大馬車の前に立たされ、乗り込んだ。
カーテンが揺れ、扉が閉じる。
外の喧騒が遠ざかり、馬車がゆっくり動き出した。
蝋燭で照らされた闇の中、俺は目を閉じる。
――アンナ、どうか無事でいてくれ。
次会う時はちょっと背も伸びてるだろうか。
そしたら俺はもっと大きくならなきゃな。
そして真っ先に生きててくれてありがとうと言って抱きしめよう。
そんなことを胸に、静かに息を吐いた。
ラシェルは没落貴族の次男、ヴァルモンド家は辺境伯家です。
王に忠誠を尽くしていましたが、貴族間の権力争いで謀反の濡れ衣を着せられ、一族処刑が決定。
領地は封鎖され、屋敷も兵に包囲されていました。
そんなときラシェルの父は残りの財産を奴隷商人に渡し、「この子をどこか遠くの地へ連れて行き、名を名乗らせるな」と依頼し、“奴隷として売る”ことで、処刑リストから除外させて幼いラシェルを逃すことにしました。
その噂を聞きつけた隣国のとある貴族がラシェルを買い取ることをすでに確約します。
ラシェルは結構気に入ってるのでまたいつか出てきて欲しいと思います。
金髪美形ショタ最高!




