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誘拐イベとか聞いてない!!


「ねぇ、おかあさん。きょうもおはなし、して?」


「また? 昨日も聞いたばっかりでしょ」


そう言いながら、母親は寝かしつけのために持ってきた絵本を閉じた。

子どもは、毛布をぎゅっと握りしめて首を振る。


「だって、すきなんだもん。ききたいの」

「もう……しょうがないわね」

枕元の灯りを少し落とし、髪をそっと撫でると、子どもはうれしそうに布団の中で小さく体を丸める。


「じゃあね――ほんの少しだけよ。」

「うん!」


「むかしむかし、あるところに一人の男の子が暮らしていました。その子の名はルーカス。

後に邪神を討ち"終焉の魔導王”と呼ばれることになる少年です――」



 ***


バンッ!


「アンナァァァァァァァ!!!」

「お兄ちゃんうるさい」

「今日も世界で一番かわいいよォ〜」

「わかったから。」


ここは王都の外れ スラム街〈グラヴェル〉。

王都みたいに光る魔法灯なんて、ここにはない。

代わりに、ぬかるんだ道が月の光を映して、泥水が光って見える。雨が降ると、地面に染みた泥が足にまとわりついて、歩くたびに「ぐちゅ、ぐちゅ」って嫌な音を立てる。

それでも、この場所が俺は嫌いじゃない。

なんて言ったって、ここには俺の大事な大事なキューティクルマイシスターがいる!!


俺のエンジェルこと アンナ。

最近7歳になった。

健やかに育ってくれて兄としてはうれしいばかりだ。

アンナの御髪は濃い栗色で、陽の光に当たると少しだけ赤色に見える。

黄金に輝く瞳はクリッと大きく、そんな瞳で見つめられたらお兄ちゃんはもう...///


っと、アンナのことはこれぐらいに止めといて……。


俺とアンナは、街のはずれにある小さな小屋に2人で暮らしてる。狭くて窮屈だがアンナがいるから俺は問題ない。


しかしまぁ、ボロくて屋根に穴が空いてるから、雨が降ると桶を並べなきゃいけないし、冬も隙間風で寒いけど。

街のみんなが古い毛布や温かいスープを分けてくれたりするからなんとかなってる。


ん?両親?

あー、「ちょっと旅に出るね〜♡」って言って、一年帰ってきてません☆

もう四季が一巡したけど、音沙汰ゼロ。

なんやかんや強かに生きてるでしょう。知らんけど。


二人がいなくなって不安だったけど幼いアンナに寂しい思いをさせないようにと一生懸命可愛がっていたらいつしかみんなからシスコンと言われるようになった。

俺的にはまだまだ足りないと思うのだが...。


しかし、最近はアンナも大きくなってきたのか抱きしめたり、かわいいと言ってほおずりすると鬱陶しがられるようになった。

寂しく思うが、かと言ってやめるつもりはない。


このままアンナがずっと健やかに成長してくれたらいいなと思う。もちろん俺と一緒に。

……そう思ってたんだ、あの日までは


***


ある日の夜、小屋に帰ってくるとアンナの顔が真っ赤になっていた。


「アンナ!? アンナ!!」


おでこを触ると熱くて、布団の中でうなされてる。

焦って、震える手で水を汲み、こぼれても構わずアンナの額に当てた。

それでも熱はいっこうに下がらない。アンナの息がどんどん浅くなっていく。

――どうすればいい?俺は何もできない。

その“何もできなさ”が、何より怖かった。


「お兄ちゃん……さむいよ……」

アンナがか細い声で言って小さな指先で俺の手を探して、ぎゅっと握ってきた。


あぁ、何やってんだ。

何も出来ないとか怖いとか言ってる場合じゃないだろ!!

この子が一番苦しいのに。こんな俺を頼ってくれてるのに。

何が何もできないだ!

兄としてまずこの子を安心させなきゃいけないんじゃないか!!


「大丈夫。お兄ちゃんがすぐ治してやるからな」

俺はアンナの小さな手を強く握り返してそう言った。


しかし、これでは口先だけだ。

どうしたらいい?このままだとアンナが死んでしまう。考えろ考えろ。………


ふと、このまえ広場の屋台のおじさんが言ってた言葉を思い出した。

「店閉めてから来たら余った果物をくれてやるよ。体には新鮮なもんが一番だからな」


 俺は思わず立ち上がった。

「ちょっと待っててな。すぐ戻るから」

うなされるアンナの頭を撫でて、毛布をかけた。

小さな寝息が聞こえて、俺はそっと扉を開けた。


冷たい風が、顔に吹きつける。

俺は、壊れかけたランタンを握りしめて走った。


街の奥へ行くほど、空気が冷たくなる。

屋台のおじさんは、たしかこの先の角を曲がったところ。


……けれど、そこには誰もいなかった。


木の箱が倒れていて、果物の皮が散らばってる。

辺りを見回したけど、人の気配はない。


その時だった。


「――坊や、こんな夜更けにどうしたんだい?」


低くて、どこか懐かしい男の声。


振り返ると、さっきまで誰もいなかったところに

黒いフードを被った男が立っていた。


(誰だ?一先ず無視して戻......)

「あ、あの……アンナが熱出して…それで…屋台のおじさんを探してて……」

咄嗟に口を押さえる。

気がついたら言葉が出ていた。

「そうかい。そのおじさんなら、さっき見かけたよ。あっちに行ったはずだ」


男が路地の奥を指さす。

そこは、普段なら絶対に近づかない場所だ。

(やっぱり、今日は戻って朝明けに来よう...)

そう思ったのに勝手に体が路地の方に向かっていた。

靴が泥を踏んで、ぐしゃりと音を立てる。

振り返ると、男はもういなかった。


すると、フッと体がいうことを聞くようになり急いで路地から出ようとした。


その瞬間。


――鼻と口を塞がれた。


息ができない。

後ろから誰かが腕を掴んできて、もがいても力が入らない。

必死に呼吸をしようとするたびに布の向こうから、甘い匂いが口の中に広がる。

頭がぼんやりして、足が動かなくなる。


「おとなしくしな……」

「珍しく上玉じゃねぇか」

「見つかる前にずらかるぞ」

耳元でさっきとは違う男たちの声がした。

体が空に浮く感覚。

遠くで犬の吠える声が聞こえた気がした。


……アンナ!!


帰らなきゃ。帰らなきゃ。アンナが待ってるんだ。


視界が細くなって、灯りが遠ざかっていく。


薄れゆく意識の中で倒れた屋台の上に転がる赤いリンゴが見えた。

まるで、昔家族で見た月みたいで綺麗だった。






ーーーーー


フードを被った黒い人影。

路地から、低く響く声がした。


「妹が病気……フフッ」


影がわずかに顎を上げる。

月明かりの筋が、その口元だけを照らした。

「では向かうとしましょうか。」


そうして影は夜の闇に消えていった。




読んでくださってありがとうございます!

以前書いていたお話を改稿しました。

改稿しているうちに「ルーカス、ちょっと普通すぎないか?」と思い、思い切って自分の好きな“シスコン”キャラにしてみました。


よろしければポイントや感想、また次回もお付き合いくださると嬉しいです。


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