研究 その7
私は帰る準備をして部屋を出た。
外に悠人が車を回して待っていてくれた。
「乗れよ」
「ありがとう」
私は悠人の車に乗った。
「時間がかかっていたけど、研究助成の資料作成が難しいのか?」
「え? 65点かな? だから、別のことをしていた」
「おい、生活がかかっているんだから、しっかりしろよ」
「ま、たぶん大丈夫よ。前回は新規だったけど、継続ならこんなものよ」
「そうか… で、別のことって何をしていたんだ? ARメガネということは天野教授がらみか?」
「そう、お父さんのしていた研究の資料が読めたの。全部じゃないけどね」
「ということは、天野教授のあの部屋にアクセスできたのか?」
「うん。たぶん」
「葵さんには言ったのか?」
「葵さんにはまだ言っていないわ」
「天野教授の研究室がどうなるかで葵さんの生活も大きく変わるぞ」
「そう、悠人は葵さんに気があるの?」
「いや、晶が気にしていた」
「そう。あっ。明日は出かけるかもしれないわ。連絡が取れたらだけど…」
「どこに?」
「沖芝工業」
「沖芝工業? 何の会社だっけ? 通信か?」
「しらない。お父さんの研究室と共同研究をしていたみたいだけど、業績がよくないみたい」
「どうして、沖芝工業に行くんだ?」
「お父さんの研究室の担当者に会いたいんだ? お父さんの研究室のあのコンピュータはNeuraLumeというらしいけど、そのアクセス権が担当者しか知らないの」
「そうなのか…」
「そういえば…」 メールをしたんだった。私は携帯を確認したが、返信がない。
「担当者は今日は休みなのかな? 返信がないわね」
スーパーが目に入った。
「悠人、ここで降ろしてくれない?」
「どうした?」
「食糧を調達しようかと思って…」
悠人はスーパーの駐車場に停めた。なぜか悠人も降りる。
「悠人、帰っていいわよ」
悠人は無言でスーパーのカゴを取る。
「はぁ。簡単なものしか作らないわよ」
「あぁ」
悠人はお父さんより食べるから、いつもより多めに買って帰る。
悠人は私の家の前に車を停め、私を降ろした。
悠人の家は隣だから、家に車を停めに行ったのだろう。
隣なんだから、悠人の家に停めればいいのに…
私はエプロンをつけて温野菜に焼いた鳥もも肉を混ぜたサラダとアンチョビパスタを作る。
私だけなら、焼いた鳥もも肉は入れないけど、悠人は肉がないと不機嫌になるからだ。
悠人は家からビールを持ってきたようだ。2缶をテーブルに置いて、残りを冷蔵庫に入れた。
そして、グラスを2つ取り出してビールを注ぐ。
はぁ。自分の家のように悠人はくつろぐわね…
私は出来上がった料理をテーブルに並べてエプロンを取った。
私たちは黙ってグラスを合わせて食事をする。
料理の感想はないのかい! と思いながら食べていると、「沖芝工業に行くときは俺が送る」とボソッと言った。
「タクシーで行くわよ」
「ダメだ」
「どうして?」
悠人はビールをグラスに注いで、「調査が終わったら説明する」と言った。
「そう…」
悠人はこれ以上はまだ言うつもりないのか、その後は黙々と食べて帰っていった。




