不思議の国の私 その3
しばらくすると、モヤが薄くなって来た。
うーん。どこだろう?
あれ? 私の家?
私は家の玄関を開けて中に入り、リビングの扉を開けようと思ったけど、灯が漏れている?
消し忘れたのかな?と思いながら扉を開けると、お父さんがソファーに座ってタブレットで何かを見ていた。
「お父さん?」と私が言うと、お父さんはタブレットから目を離して「彩音、おかえり」と言った。
いつものお父さんだ… と思ったら、「ただいま」と答えていた。
「遅くまで研究所にいるんだな。根を詰めるのは良くないぞ」
「うん。大丈夫よ」
私もソファーに座り、お父さんが居る… お父さんが亡くなったのに以前と同じように居る。
今までの状況から考えて、現実じゃない。
別世界かも?と思うより、NeuraLumeが私に見せている方が可能性が高い。
別世界もNeuraLumeが見せることもファンタジーだけど、NeuraLumeが見せている方が現実な気がする。
ということは、目の前にいるお父さんはNeuraLumeのお父さんの脳情報から再現されたってこと?
「何だ? じっと見て。何か話があるのか?」
「…」
「何かあるんだろ? はっきり言いなさい」
「…お父さんはNeuraLumeの研究をしているのでしょ?」
「NeuraLumeの研究? NeuraLumeの話は彩音にしたことはなかったと思うが、どこで聞いた?」
NeuraLumeの中のお父さんなら、現状を話しても問題ないよね?
「えっと、お父さんが亡くなったので、私がお父さんの研究を引き継いだの」
「私が死んだ!? 何を言っている?」
「本当よ」
「じゃ、ここは死後の世界と言いたのか? 彩音がここにいるということは彩音も死んだのか!?」
「意識不明になったことまでは知っているけど、現状はわからないわ」
「意識不明になったことを知っている? 説明しろ」
私はお父さんにfMRIを被って起きてからの経緯を説明した。
「なるほど…」
「何かわかった?」
「そうだな。ここがNeuraLumeの中と想定する」
「うん」
「で、私は死んで、NeuraLumeの脳情報だとする」
「…うん」
「NeuraLumeは脳のシミュレーションを行うが、複数人分の処理はできない」
「そうなの? でも、お父さんと私が会話できているわよ」
「多重人格同士が会話できるということもあるらしいから、できなくはないかもしれんが、fMRIを彩音が被った状態と考えるのが自然じゃないか?」
「じゃ、私が病院で起きたのは気のせいということ?」
「わからんが… 複数分岐が発生すると、同一人物が増え、処理が増える…」
お父さんがブツブツ言い始めた。
「…お父さん?」
「あっ。すまん。…彩音、仙台の彩音はさっきと同じ動作を辿るようにしろ。そうしないと処理が負荷になり停止する可能性がある。そうなるとfMRIでつながっている彩音に影響があるかもしれん」
NeuraLumeの中かもと思っていたけど、fMRIを被ったままというのは思いつかなかった。
でも、病院のベッドはリアルだった気がする。
それに、仙台でNeuraLumeの対応を私はしていない。
「うーん。でも、仙台の私を対応したのはNeuraLumeの私だと思うけど…」
「NeuraLumeの処理能力を考えるとそうかもしれんが… 仙台の彩音が別のルートで動作すれば、同時に存在する彩音が増える可能性がある。処理が増え、オーバフローする可能性が高まる! 彩音! 彩音がガーデンソファーで小説を読み始めたぞ!」
「うん、時間がないわね。でも、どうすれば仙台に行けるのかなぁ」
「ここが、NeuraLumeの中なら思い込めば何とかなるんじゃないか?」
お父さんが目を閉じると、モヤがかかったようになり消えた。
そして、仙台にお父さんが現れた。
目を閉じて思い込めば良いの? 本当?と思っていると、以前に見た状況が再現し始める。
仙台のお父さんは『それほど驚くとは思わなかった。すまん』と記憶と同じ言葉を話す。
『え? お父さん?』
えっと、私の出番はいつだっけ?




