悠人に説明 その2
「銀行口座の取引履歴を見せろ」
「わかったわ」
私はPCを操作して、銀行口座を見せた。
「お前、相当もらっているな…」
「なによ。変なところ見ないでよ」
「しかたないだろ? 見えるんだから」
「そうね…」
「彩音はこの時間に銀行口座を操作していないんだな?」
「そうよ」
「これって、ハッキングよね?」
「この取引履歴にはログイン失敗も記録されているな」
「あっ。そうね」
「この今日のログイン失敗は、彩音か?」
「違うわ」
「このパスワード変更は彩音か?」
「そうよ… パスワード変更後にログイン失敗ということは…」
「そうだ。犯人が以前のパスワードでアクセスしたが失敗したということだが、パスワードを変更してよかったな」
「あっ当たり前じゃない。ちゃんとセキュリティ教育は受けているんだから」忘れかけていたけど…
「彩音の以前のパスワードを知っている奴はいるか?」
「いないわよ」
「類推しやすいパスワードか?」
「いいえ、パスワード強度は高いわよ」
「ほう。どこかに書いているとかは?」
「書いていないわよ。セキュリティの基本でしょ?」
「ふーん…」
悠人が私の顔をじっと見る…
「なによ」
「寝言でパスワードを喋っているとかは?」
「え? ないと思うわよ」
「今、頭に浮かんだ奴を疑った方がいいんじゃないか?」
「いないわよ!」
「まぁ。そういうことにしておこう。彩音はパスワードが漏れていないと思っている。だが、以前のパスワードを知っている奴がいた」
「そうなるわね。でも、誰よ?」
「俺には心当たりがある」
「え! 誰? その心当たりを教えてよ」
悠人はソファーの背もたれに背を預けて、「ルッツ…」と言った。
「ルッツってNeuraLume!? まさか…」
「ルッツは彩音の脳情報をコピーしているだぞ。知っていてもおかしくないだろ?」
「うっ。そうね…」
「どうするつもりだ?」
「どうするって?」
「NeuraLumeだよ。彩音の銀行口座にアクセスしたんだぞ。問題だぞ」
「そうね。でも、リセットできないのよねぇ… いっそのこと、もっと私の脳情報を精緻化させてモラルも教える?」
「できるのか?」
「わからないわ」
「だろうな。それより、しなきゃならないことがある」
「え? 何?」
「何って、わからないのか?」
「だから何よ!」
「NeuraLumeのネットワークの遮断だよ」
「あっ。そうか」
「もし、ルッツが犯人なら、悪さはできないようになる。その後も続くなら、ルッツじゃない奴。すなわち、彩音の寝言を聞いた奴が犯人だ」
「私の部屋には盗聴器はないでしょ? なら、寝言は聴かれていないわ」
「ふーん。この家とは限らないだろ?」
いつの間にか私が寝言を言うことが前提になっている? 寝言なんて言わないわよ。たぶん。
私がふくれていると、悠人が「研究室に行くぞ」と言って、出ていった。
私の意見はなし? でも、ネットワークの遮断をしなきゃいけないから、研究室に行く必要はあるんだけど…
悠人と私は研究室に戻った。
葵さんはもういない。帰ったのね。
私はNeuraLumeの扉を開けた。
「どうかしましたか?」と女性の声がした。ルッツね… 完全の私の声じゃん!
悠人は顔を顰めて、声のする方を見ている。
「なんでもないわ」
悠人は黙って中を調べている。ルッツにネットワークの遮断の話はできない。
「見つかった?」
「あぁ」
私は悠人の声がする場所に向かうと、「これだ」と悠人が指差す先を見た。
「この箱の中?」
「そうだ。この箱の鍵はどこだ?」
「知らないわ… ということは」
「あぁ。そうだ。出るぞ」
私と悠人はNeuraLumeの部屋を出た。




