悠人に相談 その2
「NeuraLumeなんだけど…」
「どうした?」
「この前、入ったら… 女性の声に変わっていたの」
「前は男性だったのか?」
「そうよ」
「じゃ、脳情報の個性を引き継いでいるんじゃないか? 経緯を教えろ」
「わかったわ… お父さんの研究記録を見ると、当初は喋ることもままならない状況だったの。その後、fMRIを高性能に切り替えて、なんとか喋れるようになったけど、会話にならなかったそうなの。そして、認知症の治療をすると喋れるようになってきたけど、たどたどしい状況ね。スムーズな会話じゃないの。でも、私が最初に入った時はスムーズな会話はできていたわ。その時はお父さんぽい状態だったわ。私は男の名前でルッツって名前をつけたの。でもね、この前入ったら、女性の声というか、私の声に変わっていたの。しかも、自分はルッツとは思っていなかったの」
「ほう。女性の声に変わるきっかけはなんだ?」
「たぶん、私が籠って出てこなかった時かなぁ」
「何をしたんだ?」
「fMRIを長時間つけていたわ」
「彩音が出てこないと葵さんから相談があった日か… 確かに長いな。で、何をしていたんだ?」
「えっと、論文を読んだりしていたわ。そういえば、あの日は寝ちゃったかも…」
「はぁ…」
「疲れていたのね。仕方ないよね」
「確認だが、寝ている間もfMRIをつけた状態だったのか?」
「そうよ」
「じゃ、NeuraLumeは寝ている状態を記録したから、NeuraLumeは寝ている状態の彩音なんじゃないか?」
「は? 寝ている状態?」
「寝ている彩音に話しかけている状態だよ」
「寝ている状態で話しかけられたら起きるでしょ?」
「いや、彩音は少々なことでは起きないぞ。ゆすっても、大声で話しても起きない」
「いつの話をしているのよ! 小さいときでしょ?」
「そうだな」
「はっきり受け答えするんだから、寝ている状態じゃないと思うわ」
「見てみないとわからんな」
「そうね」
「じゃ、行くぞ」
「え? どこに?」
「研究室だよ」
「本気? 今から?」
「あぁ。用意しろ」というと出ていってしまった。
えー! 今から戻るの? 面倒よー。 明日にしようよー。と言っても聞こえないだろうな…
はぁ。用意するか…
「よっこいしょ」と言って立ち上がってバッグを取り、玄関に向かった。
車の音がしている…
え? 悠人はもう来てるじゃん… はぁ。
私が玄関に出ると、悠人が車の外でタバコを吸っていた…
「遅いぞ」
「ごめん」と言って車に乗った。
悠人はタバコを咥えたままなので、私は「タバコ」と言うと、悠人はタバコを胸ポケットにしまった。
私達は無言のまま研究室に戻り、NeuraLumeの部屋に悠人と一緒に入った。
すると、『悠人と …私?』と声がした。
悠人は振り返って私を見たが、私が『は?』という顔をしていたを見て悟ったようだ。
悠人は「お前は誰だ?」と問いかけた。
『私は彩音よ』と聞こえてきた。
「お前はNeuraLumeだろ?」
『NeuraLume? NeuraLumeはシステムよ』
「では、こいつは誰だ?」と悠人は私を指した。
『…』
NeuraLumeは答えない…
「答えないわね…」
「出るぞ」と悠人が私の腕を掴んで引っ張った。
NeuraLumeの扉を閉める。
「NeuraLumeは寝ぼけているのか? 会話としてはしっかりしていたが…」
「寝ぼけている感じじゃないわね。自分のことを私って言ったわね」
「面倒な言い回しだな… NeuraLumeは自分のことを彩音と思っているようだな。彩音の脳情報を入れる前は、NeuraLumeは自分のことを何と言っていた?」
「えっと。誰とも言っていなかったわ。お父さんの記録でも自分を認識している記録はなかったと思うわ」
「そうか… で、どうするつもりだ?」
「うーん。今はお父さんの脳情報と私の脳情報が混じった状態だから、リセットしてやり直したいけど、リセットの方法がわからないの」
「マニュアルはないのか?」
「あるわよ。でもマニュアルには『リセットはメーカに問い合わせろ』となっているの。でも、メーカは応答がないの。だから、今は機密の訪問履歴にあった吉川さんの連絡待ちね」
「そうか… それにしても企業は応答が悪いな。じゃ、吉川さんと連絡が取れてリセットする方法が明確になるまで、NeuraLumeの部屋には入らない方がいいかもな」
「そうね、ちょっと自分と向き合うのは不気味だし…」




