ルッツの変化
研究室に着くてPCで事務処理を片付け始めると、葵さんが出社してきた。
「おはよう」
「おはようございます」
葵さんは眠そうだ。
「もっと遅くに出社してもよかったのに…」
「いえ、大丈夫です」
私は事務処理を片付け、NeuraLumeの部屋に入った。
「おはよう。彩音」と女性の声がした。
ん? 女性の声に変わった?
「ルッツ?」
「ルッツは誰ですか?」
「あなた、NeuraLumeでしょ?」
「NeuraLume… …そうです」
変な間があったわね… それに自分のことをルッツだと思っていないようだけど、NeuraLumeであることはわかっているのね。
私は不審に思い、ARメガネをつけてNeuraLumeにログインした。
昨日の昼頃から、今朝まで光量子チップの稼働率はほぼ100%だった。
だが、今は落ち着いている…
昨日の昼頃はfRMIを接続していたから稼働率が高いのはわかるけど、今朝まで高かった理由が思いつかない。
それに、メモリ使用量もほぼ100%… IOも高いわね…
フル稼働じゃない…
昨日のログを見る。
はぁ。このNeuraLumeの作者はログ出力魔なのか、デバッグモードだからなのかわからないけど、莫大な量のログがある。
一番古いログを確かめると、2日前だ。
それ以前は自動削除されている。
これじゃ、正常時と比べることもできないじゃない。
昨晩の状況は保存しておくべきね。
えっとストレージの容量は… 余裕がないわね…
これじゃ、ログを保存しておけないじゃない。
研究用だから手探りなのはわかるけど、システムとしてどうなの?
外部メディアを接続して保存できればいいんだけど、研究所では使用禁止だ。
NeuraLumeにも外部メディア接続ができない設定が入っているだろう。
システム管理部に相談するか…
私はNeuraLumeの部屋を出てシステム管理部に向かう。
私はシステム管理部の部屋に入り、手近の人に声をかける。
「すみません」
「はい。あっ。天野教授」
私のことを知っていてくれているのね。話が早いわ。
「私の研究で大量のデータが発生して、それを退避したいけどできるかしら?」
「容量はどのくらいですか?」
「100Gぐらいね」
「利用期間はどのくらいでしょうか?」
「1年は無理かしら?」
「わかりました。研究用ネットに大量データが流れると問題です。研究に差し支え出ると文句が出ます。ですから、帯域制御コピーツールを利用する必要があります。それを利用しないとネット使用容量の変化を検知して、アラームが鳴ります…」
「研究室の機器に帯域制御コピーツールが入るかどうかわかりません」
「OSは何ですか?」
「…わからないのです」
「そうですか… 私がその部屋に入ることはできますか?」
「はい」
「では、私の特例端末を機器のネットにつないで、特例端末にコピーします。ただし、申請に2日程度かかります」
「え? そうなのですか? それじゃデータが消えてしまいます…」
「至急で承認ワークフローを回しますが、保証はできません」
「承認者を教えてください。直接行って、承認を早くしてもらうようにお願いします。どなたでしょうか?」
「5人で、一人目が…」と担当者が見た人は、私達の話が聞こえていたのか、腕で丸を作った。
お茶目な人だ… 私はニコッと微笑み、会釈をした。
残りの人に順番にお願いに行かなきゃ…
うーん。これって、大昔の承認のハンコリレーじゃない?
私は承認を速くしてもらえるように、お願いの行脚をした。
そのおかげで素早く承認してもらえた。
承認が降りたので、担当者をNeuraLumeの部屋に入れてログをコピーしてもらった。
「POSIX準拠だからよかったです。そうじゃなかったら、コピーできませんでした」
POSIX準拠?
「そうなのですね… OSは何かわかりますか?」
「起動ログを見ると、OS名はNeuraLumeと記載されています。操作体系もディレクトリ配置もUNIX系ですが、Linuxじゃないですね。MachOSに近いような気がします」
Linuxは知っているからCPU使用率なんかは調べられたけど、結構コマンドがないと言われるのはOSが違うからなんだ…
「MachOSって何ですか?」
「マイクロカーネルのOSです」
「管理者権限を取得することはできますか?」
「無理ですね。でも、彩音さんのアカウントの所属グループはほとんどの場所へのアクセス権限がありますよ」
「そうですか… わからないことがあったら、相談していいでしょうか?」
「はい。もちろん。ログがアクセスできる場所に置いたら、メールします」
「よろしくお願いします」




