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光の幻影  作者: 鐘雪 華
19/59

過去

「俺が沖芝工業を辞めた理由が光量子チップだ」と岡田さんがぼそっと言った。

「そうなのですか? 動かなくて責任を取らされたとか?」と軽口を叩いた。


 それを無視して、岡田さんは真剣な顔で話を続けた。

「いや、光量子チップは完璧に動作した。完璧すぎたんだよ」

「完璧ならいいじゃないですか?」


「俺は光量子チップを完成させたが、良い利用方法がなかった。そのような時に彩香がまともな食事をしていないだろうからと言って、家に呼んでくれた。その時に義孝に相談したんだ」

 20年以上前の話だよね?


「義孝は人間の脳をシミュレートするにはコンピュータが計算速度が遅すぎるからそれに利用してみてはどうかと言ったんだ。俺は、誰も実現できていないことが実現できるほど速いチップならいい宣伝になると思ったんだ」

 お父さんは脳科学者だから、そう提案したのね。


「俺は義孝から論文を借りて読み、ニューロンの動作のシミュレーションができるようになった。しかし、人間の脳には程遠かった。義孝に協力してもらって、大脳や小脳、海馬などを作り始めた。この時、彩香が倒れたんだ… 彩香が死んでも義孝は作り続けた」

 あっ。あの頃ね… お父さんには会えない日が続いたわね。私はほとんど悠人の家の子みたいだったわ…


「人の脳をシミュレートできるようになるまでに10年かかった… しかし、動かなかったんだ」

「さっきは完成したと言いませんでした?」


「光量子チップは完璧だよ。俺が作ったんだから。でも、脳としては出来ても、記憶も何もない赤ちゃんみたいなものだ。突然、ギャーギャー言い出したかと思ったら、何も反応しなくなった。脳の情報が必要だということになったが、そんなものはないから研究が頓挫した」

「で、fMRIの登場ですか?」


「fMRIの精度は低すぎてダメだ。俺は研究が頓挫したことを役員会で報告して、責任を取って辞めることになり整理していた。すると、正確な脳情報を常務が持ってきた。そして、それを使って動作するか確認しろと言ったんだ。その脳情報を義孝に登録してもらって起動させた」

 ほう。それで…


「やっぱり、ギャーギャー言うだけだったので同じかと思ったけど、そこからが違った」

 岡田さんは私を見ているが、続きを話さない。

「どう違ったのですか? 教えてください」


「辿々しいが言語らしきものを話し出した。よく聞くと、英語だった」

 脳情報はアメリカ人かしら?


「調整を繰り返すと、汚いFワードばかり叫んでいたよ。なんとか落ち着かせて、会話ができるようになると、自分はマイク・ウイリアムズだと名乗った。そして、死刑囚として収監され死んだと言った」

「死刑囚を凍らせてスライスして写真に撮ったデータを見たことがあるわ。同じようなことをしたのかしら…」


「義孝も同じようなことを言っていたな。俺は常務に動作したことを報告すると、常務は研究室に来て、状況を確認すると『このことは口外するな』と告げて出て行った。しばらくすると、守秘義務誓約書にサインさせられたよ」

 うーん。ここで話しちゃっているけど、いいのかな? 違反だよね?


「その後、研究室は閉鎖となり、俺は退職した」

「え? 成果が出たのだから、続けるのでは?」


「知らん。成果が出ないので閉鎖だと告げられただけだ」

「成果は出た… なるほど、守秘義務誓約書で言えないのですね」


「そうだ」

「その後、NeuraLumeを作っているのですから、続けていたのですよね?」


「らしいな。だが、その後は知らん。彩音の研究室も監視されていたから気をつけろ」

「はい」


 岡田さんは冷えたお茶を飲んで、『さめている』とでも言いたげに苦い顔をした。

 そして、「相談があれば、連絡しろ」と言って、家を出た。

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