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3 二つの葬儀

 ザネットは1832年5月30日未明、倒れているのを発見され、その日の内に息を引き取った。

 享年20才。

 余りにも早すぎる死であった。新聞にはその死について『良き数学者の死と』と報じられた。


「我らが友が昨日なくなった。

彼は常に真っ直ぐな心と何者をも恐れない勇気の持ち主だった」


 翌々日、月の変わった6月1日にザネットの葬儀は行われた。その葬儀の末席にシューとデュナンも参列していた。


 思ったほど人が集まらないな、とデュナンは1人小さく呟いた。

 参列している仲間たちにそれとなくザネットは警察に謀殺されたという噂を吹き込んでいたがいかんせん人が少なく効果が上がっているとは言いがたかった。そこにシューが強ばった表情でやってきた。


「ラマルク将軍が亡くなられたそうだ。民衆はそっちに集まっているようだ」


 シューの耳打ちにデュナンは口元を歪めた。


「なるほど、納得だ。

ふむ、ザネットはどこまでも運に見放された奴だったな」

「だから俺が言ったんだよ。でっ、どうするんだ?」

「どうするとは?」

「俺たちの計画だよ。止めるのか、それともこのまま進めるのか、だよ」

「そりや、進めるんだ。

ここは切り上げて、ラマルク将軍の葬儀の方へ行ってみるか」


 デュナンの言葉にシューは驚いたように目を見開いた。


「いや、だがそれではザネットの死が全く無駄になってしまうじゃあないか」

「俺たちは民衆の決起を促したいだけだ。それがザネットだろうがラマルクだろうが切っ掛けはどっちでも構わんだろう?

それよりも、ここで俺たちが時間を浪費して決起を促す好機を逸するとなればそれこそザネットは無駄死にだろう」

「そんなものなのか?」

「そんなものだ。転がり始めた岩は止められない。転がる先をいじくるだけだ」


 2人はザネットの葬式の参列から姿を消した。目指すはラマルク将軍の死を悼む人々のところだった。


 そして、1832年6月5日。

 遂にパリ市民は現政権への不満を爆発さて蜂起した。蜂起した民衆は一時期、パリ中央から東部地域を支配したが、そこで暴動の規模は止まってしまった。

 これに対して政府の態度は強硬だった。すぐさま軍を投入して鎮圧にあたった。市民たちは街角にバリケードを作って対抗したが、結局、暴動は6月6日には完全に制圧されてしまった。

 暴動は失敗に終わったのだ。

 歴史書には『パリ蜂起』あるいは『6月暴動』と刻まれ、その切っ掛けの一つとして『ラマルク将軍の死』が記憶されるに留まった。


 ザネットの願い。革命を起こし世界の構造を変える切っ掛けになる、は全く叶えられることなく終わったのだった。


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