デストピア 監視社会の恋愛評議会
「うわー、すごいごちそうだね」
花梨の部屋に遊びに来た、光輝が歓声を上げた。
「だって、今日は、私たちの恋人記念日だもの。忘れてたの?」
「忘れてた……何てね。はい、これ」
光輝は、カバンから、赤いリボンがついた長方形の箱を取り出した。
「花梨へのプレゼント」
「何?何?……ワアっ!」
花梨が長方形の箱を開けると、小さなほの白いムーンストーンのペンダントだった。
「かわいい! 私、こんなペンダント欲しかったの」
花梨の感激した目はキラキラし、光輝は、その目は、このムーンストーンよりもきれいだと思ってジーンとした。
その時、突然、けたたましくドンドン叩く玄関の扉の音がした。
花梨が慌てて玄関に行くと、
「早く開けろ!」
と偉そうな声がした。
その男の気迫に押されて扉を開けると、4人の警察官がいた。
「山村光輝、水瀬花梨、これから、恋愛評議会に連行する!」
と、逮捕状のような恋愛評議会連行状を見せて、2人に手錠をかけ、パトカーに引っ張って行った。
花梨と光輝は、突然の異常事態に考えが追いつかなかった。恋愛評議会なんて、聞いたことがない。
それもそのはず。監視社会で、これから、普及していく制度だったからだ。
花梨と光輝に目をつけたのは、この監視社会の重役の女性たちだった。この女性たちは、花梨と光輝の仲睦まじい姿を街で見かけて目をつけてずっと監視していた。2人の仲睦まじさに腹を立てて、この恋愛評議会に連行させたのだった。
恋愛評議会のある1室に、半ば引きずるようにして連行された花梨と光輝は、それぞれ、試着室のようなボックスに入れられて、電磁波を頭の中に挿入された。2人は、頭の中で、電磁波がビリビリミミズが這うような感覚がした。
「山村光輝、水瀬花梨、おまえたちは、今、電磁波を挿入されて、我らはおまえらの思考を盗聴することができる。その思考をあのモニターの画面に文字としても表記できる」
「これから、我らの質問に答え給え」
花梨と光輝は訳がわからず言われるがままになった。
「山村光輝、おまえは、水瀬かりんを本当に愛しているのか?」
光輝は「はい、もちろん」と言いかけたがなぜか声が出ない。でも、恋愛評議会の重役の女性たちがモニターを見て嘲笑している。
光輝がモニター画面に目をやると、
「花梨なんて、俺の金ずるに過ぎない」
という文字が並んでいた。花梨もその文字を見たのか信じられないというように、目を白黒させていた。
光輝は「ちがう!」と言いたかったが声が出ない。
「今度は、水瀬花梨」
という声がした。
「おまえは、山村光輝を愛しているか?」
今度は花梨が、先程の光輝の思考のモニター画面を見たにも関わらず、「はい」と答えようとした。でも、花梨も声が出なかった。
花梨の思考のモニター画面を見ていた重役の女性たちは、またまた嘲笑した。
モニター画面には、
「光輝なんて、シングルの時の穴埋めよ」
と出ていた。花梨は、酷い!、そんなことない!と思って涙が出てきた。
恋愛評議会の重役の女性たちの嘲笑にさらされて、光輝と花梨は呆然としていたが、やがて、電磁波の効力が切れたのか、2人の声が出るようになった。
光輝「僕は花梨を愛している!」
花梨「私も光輝を愛しています!」
2人はほぼ同時に叫ぶようにして言った。
重役の女性たちを好ましく思っていない、恋愛評議会の初老の高官が言った。
「儂は、この2人の声にした言葉が真実だと思う!」
と裁定を下した。
「ありがとうございます」
花梨と光輝は、この高官に笑顔でお礼を言った。
恋愛評議会を終えた花梨と光輝は、無事釈放されたが、門を出る時に、あの高官が近寄ってきて、2人にささやいた。
「今の思考盗聴は全く当てにならんからな。思考を捏造してモニター画面に出せるのでな。そういう時代になったら、思考盗聴なんて何の役にもたたん。声にしていることが真実の気持ちじゃよ」
花梨と光輝は本当に焦ったが、良い高官さんのお陰で助かったと胸をなで下ろした。
下手したら、2人は愛し合っているのに、捏造思考盗聴で、別れさせられていたかも知れないからだ。
ーおしまいー
読んでいただき、ありがとうございます。
デストピア、監視社会という言葉から、何を連想しますか?
私は、この小説のようなことを連想しました。
でも、デストピアではこんなに簡単には行かないかも知れないですが。
そこは物語ということで。