第九十一句
「同じようにはならないよ」
(後ろに何かいる。目線の高さ的には影狼だね)
先ほど奥に行ってしまったのは操っている影狼だろう。それでも影人の動きがしっかりとしているのは、まだ自分たちの見える範囲にいるからだ。先に影狼を倒してしまった方が早いと考えたしがらみはなんとかこの影人たちをどうにか引き離したかった。ここらはしがらみの句能力を使うには最適だろう。
『山川に 風のかけたる しがらみは』
するとどうだろう。突如地面が盛り上がり、二階建て分くらいの高さをした岩の壁が出来上がったのだ。
しがらみの句能力:四大元素(風・火・水・地)で壁を作成
目の前に大きな壁が現れて影人が動けなくなっている隙に森の奥へと進んでいく。しばらく行ったところには店であろう民家が並んだところまで来た。恐らく商店街のようなものなのだろう。民家の隙間に隠れている黒い影を見つけると、ゆっくり近づいていった。
だがそんなことで気づかない連中ではない。勢いよく飛び出して奥へ行こうとしているところを見て一瞬焦った。そこで風が計算していたかのようにしがらみの背中を押す。影狼の目の前で集まるように念じると、葉を巻き上げながら影狼の前に立ちはだかった。風の壁の出来上がりだ。
と言っても風が止まったら壁もなくなってしまう。地の壁を使ってもよいが、一番体力を使うしそうなると影人に作ったものの力が弱まる。便利な能力だが無駄遣いはできない。側面にも連なるように作るとクロスボウを構えてよく狙った。狭いスペースの中でもうまく逃げ回っていくのに狙いがずれてなかなか当たらない。
まもなく風が弱くなってきた。壁も出ようと思えば出られるほどになっている。
(この武器は遠距離からも狙えるけど銃ほどじゃない。早く仕留めないと風も限界を迎える。何より……)
体を震わせながらため息をついた。
(僕は慣れない崖のぼりをしたことで明日筋肉痛だということが確定したんだよ!)
もともと体力のない方なので長期戦に持っていかれるのは絶対に避けたい。泣きそうになりながらも瞬発力に賭けると消えそうになる壁に追い詰めながら胸に矢先を当てる。そのタイミングで風が止み、影狼は地面に頭を軽く打つ。
引き金を引こうとしたとき、後ろから足音がして体を半回転させながら左腕を突き出すそこに人の手が掴みかかってきたと思うと反対側の影の暗さに気づき上半身を起こすと右足を突き出して腹を蹴った。あくまで体力がないのであって戦闘力は高い。さっきの影人が登るか何かをして壁を抜けてきたのだろう。
この距離なら操りやすく、とても不利だ。体力も、矢の残りも少ない。
(もうどうしようもないな。あぁ……友さんが協力してくれたらいいんだけど)
一方友は、崖の中に緩やかな斜面の段差を見つけたところだった。よく整備がされているので海岸に降りるようの階段のようなものなのだろう。上がっていくと急に強く追い風が吹いてきた。それに押されるようにして階段を登り終えるとそれらは急に左斜めに吹く方向を変えた。
風のままに進んでいく。だんだん見えてきた商店街の真ん中にあった景色に思わず目を見開く。しがらみが影人たちと戦っていたのだ。よく見ると影狼もいる。だいぶ体力を消耗した様子をみて先ほど戦った影狼が変身したしがらみを思い出す。
『もう、僕たちと関わらないでください』
本当に冷たい目だった。だが本人は違うだろう。すくむ足を一歩前に出し、剣を鞘にしまうと呼吸を整えて戦いに突っ込んでいった。
何もしていないのに一瞬で倒れた影人を見て驚いた。そして、その後ろに現れた友を見て、しがらみは倍くらいに驚いた。
「……手伝ってくれるんですか?」
顔は下に向いたままでよく見えないが、少しだけ首が縦に振られた。笑いかけると、逃げそうになっていた影狼を追いかけた。




