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第八十八句

「誰か私の友達は……」

 ギラギラと照る太陽。皆が何かを話しながら庭園の掃除をしている中で一人だけ、松の木の下で読書をしている者がいた。日陰をつくる枝や葉は、その青年に話しかけているように感じ取れる。丸渕の眼鏡に消え入りそうな白い服で手足が隠れている。何の本を読んでいるかは分からなかったが何を考えているのかわからない表情は変わらない。


 着信音に気づいたのは四コール目の途中だ。ゆっくり本にしおりを挟むと両手で携帯を押さえながら会話を始めた。


『やぁ、友君。今大丈夫だった?』

「はい、博士」


通称:(とも)

管理番号:034

主:藤原興風(ふじわらのおきかぜ)


『仕事、頼んでもいいかな』

「はい。それでは――」


 要件が済んだと思い電話を耳から離した友を必死に止めた。「面倒」というような様子ではないが、電話越しからも疑問を浮かべた顔が思い浮かんだ。


『今回は単独じゃなくて、二人でいってほしいんだ』

「……わかりました」


 眉間にしわが寄る。説明を受けてから電話を切ると、立ち上がって館の中に戻っていった。





 麓の神社からは、高らかな笑いがいくつも聞こえた。神社にいた青年たちが崩して着ているのは、山の近くにある高校の制服だろう。振る舞いからしてかなりの不良だ。そこに、綺麗なお辞儀を一つして鳥居をくぐった青年がいた。幼い顔立ちでワイシャツの上に袴を着て、一昔前の学生を思わせる服装をしていた。


 ひたすら睨んだにもかかわらず、視線をまっすぐにして通り過ぎていった。すかさずリーダーと思われるものが前に立ちはだかる。


「おいテメェっ!無視すんじゃねぇよ!」


 自分の身長の何倍もある不良に驚きながらも、その横を回って先に進んだ。襟をつかんで強制的に振り向かせると、冷静な表情で話した。


「あのですね。僕はここを通りたいだけなんです」

「この俺を無視していくとは度胸あるじゃねぇかよ」


 降ろされると触れられたところを手で払う。それに苛立ったのか胸ぐらをつかまれた。青年はさらにその手首をつかむ。険しくした顔にびくともせず不良は話を続けた。


「たかが中学生が、俺らに歯向かうか?」


 その言葉に一瞬顔が下がったと思うと、鋭い目が刺さって来た。


「中学生?やだなぁ。俺ァ、れっきとした社会人だ。君らの学校なんかすぐわかるさ。担任は……澤村先生だろ?」

「っ……なんで知ってるんだ!」


 気味の悪くなった不良は奇声を発しながら拳を握り、振り上げた。だが後ろからの影に止められる。恐る恐る振り向くと、サングラスをかけた長髪の男性が立っていた。


「悪いな。それは俺の連れだ」


 一気に体感温度が下がる。足を震わせながら仲間と逃げだすと、ようやくその顔がはっきり見えた。


「辰巳さん!」

「大丈夫だったか?」

「はい、なんとか……」


通称:しがらみ

管理番号:032

主:春道列樹(はるみちのつらき)


 しがらみは掴まれたところにできた皴を一生懸命に伸ばしていた。どうやら散歩がてら山を下りていたら声がしたので寄ってみたらしい。辰巳は買い物の帰りだったようで、買い物袋を持った此のがあとからやって来た。今まで鳥居の後ろで見ていたようだ。


「よっ!さすが総長!」

「誰が総長だ。……って、しがらみ君もすごい迫力あったな」


 照れながら心の中では、いつものように起こる風景が思い出されていた。


 しがらみは、顔立ち、服装、身長などで中学生と間違われやすい。今までのストレスからなのだろうか、今回は割と良い芝居ができた。いつも警察から職質を受けたり不良に絡まれたりするのにうんざりしている。そのうえ笑うのが下手なのでやると刺さってくるような眼光になって逃げていく。


 なんてことを考えながら、せっかくなので買い物袋を一つ持って館に戻ることを提案した。





「すまんな。手伝ってもらって」

「いえいえ〜」


 別れると自分の部屋に戻った。ふと、扉にメモが貼ってある。


“一緒に仕事を頼まれました。先に姿見の部屋にいます”


 とてもきれいな字だ。誰が書いたかはわからないが、ひとまず準備をすることにした。

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