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第八句

『貴方といつまでも一緒にいたい……』

「わぁぁぁぁぁ!」


 鵲はまたもや影狼に追いかけられている。


「どーしよー! 能力の出力間違えちゃったよぉ!」


 パニック状態の鵲は解除の言葉を唱える暇もなく逃げ続けた。枯れ葉を踏む音が後ろから響き渡り、閑静な森はあっという間に騒がしい戦場と化した。


「あ!町が見えてきた!」


 森を抜ける直前、鵲は影狼の方を振り返って傘を構えた。


「さっきまでの話、全部嘘だよ」


 指をパチンとならすと木の上から何かが落ちてきて、たちまち影狼が倒れていった。そしてそれは鵲の前に蝶の如く着地した。しだりだ。


「誘導、ご苦労様」

「全力を尽くしました!」

「ここからも全力で行くぞ」


 影狼のほうへ勢いよく飛び出した二人は流れるように影狼を攻撃した。鵲は木の上を飛び移りながら毒針を撃っていき、しだりは襲ってくる影狼を次々に打刀で切っていった。


(よし、あともう少し……)


 そう気を抜いた次の瞬間であった。勢いのあまりしだりの手から打刀がすべってしまったのだ。そしてその(つか)が一匹の影狼にくわえられた。


「しまっ……」


 だが次の影狼はそのすきを逃さずにやってきた。しだりはそれに襲われ――




「大丈夫ですか⁉」

「……あぁ、一応な」


 しだりは影狼の胸に短刀を突き刺していた。彼の武器は二つあったのだ。


「お願い、しだりさんの刀を取って」


 鵲がそういうと打刀と噛みついている影狼が一緒に鵲のほうへ引っ張られた。まるで見えない糸がついているみたいだ。刀を少し揺らして影狼を振り落とそうとしたものの、やはり強力な牙はこんなもので負けはしない。ついに諦めた鵲は影狼の腹に傘の先端を少し当ててボタンを押した。バシュッという小さく、鋭い音と共に刀から口を離した。


「届けっ!」


 打刀を槍投げのようにして投げると、しだりは短刀をしまって空中でそれを取った。


「受け取った」

「背中はお任せを」


 この二言だけを言い残して戦いに集中していたが、二人の息はぴったりだった。しだりは自分の視野に入っている影狼に集中し、後ろに逃げたものや自分の視野から外れているものはすべて無視した。そしてその規格外を鵲が遠距離から倒すという繰り返しだ。こうすることで自分の役目がはっきりとして、狙いやすい。





「これでほとんどですかね」


 無言の意思疎通が終わり、木から降りてきた鵲は少し疲れ気味の相棒に問いかけた。


「あぁ……そうだな」

「どうしたんですか?」


 近くにあった木に寄りかかったしだりは申し訳なさそうな顔で目を合わせた。


「ちょっと……休ませてくれないか……?」


 初めて見る表情に少し驚いていたが、負けないような笑顔で答えた。


「はい、もちろんです!」



 ――静かになった街を見渡しながら能力を使ってしだりを運んでいた。すると、後ろからとんでもない殺意がした。金縛りでもあったかのような感覚だ。ためらいながらも後ろを振りむいた。


「さっきの人?」


 そこにいたのは先ほど家に帰した男性だった。


「こんなところでどうしたんですか?もう遅いので――」


 そう言いかけたときだった。鵲は気づいた、何かがさっきと違う。男性の目が鋭く、光っているのだ。まるで影狼みたいに。


「まさか……」

「ヴ……ア゛ァ゛!」


 本物の影狼そっくりに襲い掛かってきた。狙うは鵲、ではなくしだりだ。


「危ない!」


 しだりの前に行き、傘でその手を抑えた。


(どうしよう……)


 仕方がなく、鵲は力で目の前の塀に男性を押し付けた。もちろん力は強かったが、すぐ後ろだったので時間はかからなかった。しばらく暴れている状態だったが、少し落ち着いた瞬間に毒針を服に刺して動けなくした。針が深く刺さっている間に姿見へ走ろうと思ったが鵲には体力が残っていない。それに走っている間にしだりが襲われても大変だ。


(姿見がもっと近くにあれば……)


 そう思った時、一つのアイデアが思い浮かんだ。


「お願い!あの姿見を持ってきて!」


 そう叫ぶと、あの古い姿見が少年のもとへ引っ張られてきた。そしてそれと同時くらいに男性の服から針が外れた。追ってくる男性の手から逃れるため、鵲は飛び込むようにして姿見の中に入った。もちろんしだりも一緒だ。その中で最後に見た景色は男性の恐ろしい形相と


ゆっくりとなくなっていく星空だった――。


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