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第八十三句

「君たちは優秀だね」

 所々から虫の鳴き声が聞こえてくる。姿見に入ってあったのは、いくつもの廊下でつながる建物だった。これが内裏というものだろうか。姿見に足を入れた途端、肌を滑るような風が吹いたと同時に真正面から見えたこの景色に二人そろって目を輝かせていた。咳を一つしてから視線をその横に移す。


「二手に分かれよう。私がこっち、君があっちだ」


 指をさしながらそれぞれ近い方向の道を指さした。うなずいて言われた道に顔を向ける。走ろうと足裏に力をためた瞬間だ。


「誰かぁっ!」


 力強くも細い男性の声が夜の静寂にひびを入れる。一斉に振り向いて顔を見合わせると、それがした方へ行った。よく手入れされた池を飛び越え、他の者を起こさないよう慎重に声に近づく。灯りが漏れ出ていた部屋の御簾の前まで行くと、いづみはリボルバーを出して両手でしっかり構えた。みゆきに合図を押したら障子を開けるよう耳打ちをした。


 先ほどと同じく、自信に満ち溢れた表情で首を縦に振ったのを見るといづみの左手の指が『三』を表すようになるまで見つめた。


 ――その時が来る。勢いよく御簾を上げて中に踏み込むと、部屋はかなり荒らされていた。いくつもの書物が転がり、墨が床についている。だがそれは、整えられた衣服から何か所も血を流して倒れている男性たちを見つけてからで気づいたことだ。その中央で影狼がいかにも部屋の持ち主であるかのような顔つきでこちらを見てくる。


 素早く角度を調節して撃つと、額に直撃してあっという間に倒れこんだ。灰として部屋に残ったところをみゆきが横から出てきた。その手にはポイズンリムーバーが握られている。急いで中央の奥にいる男性の肩を見て噛み跡を探すと、そこに押し当てた。


 みゆきは観察力があり、気づいたことにはすぐに対応してくれる。かづらとの交流もあるので大切な仲間であり友人として見ていた。


 手伝おうと一歩前に出ると、何か違和感がした。今ちょうどみゆきが毒を抜こうとしている男性の目がかっぴらいたのだ。いづみは険しい表情となりパーカーのフードを掴む。リムーバーを落としながらもなんとか噛まれるのを免れたみゆきは頭を軽く下げてから前を向いた。どうやら、さっき倒した影狼が意識のなくなる直前に影人の能力を開放したらしい。


着物の袖や裾に撃って脅すのは通用せず、弾切れとなった銃をしまうと両手を広げた。服を掴もうと思ったが、御簾があることを気にせずに飛び出したのに圧倒されて思わず足を踏み外した。後ろにあった池を飛び越えて着地すると、御簾の前に残してしまったみゆきを見た。その場で倒れながらも怪我はなさそうだ。最低限の声で指示を出した。


「大丈夫か?」

「はい、なんとか……」

「影人は外と中に散らばった。私は外をやるから、君は中を頼む」

「でも……」

「……室内は難しい。だが、君のことを信用しているから頼めるんだ」


 室内での戦いというのはごく稀にしかない。一瞬迷いの表情が見えてから、小さく首を縦に振った。


「あぁ、その際なんだが――」


 急な付け足しに最初は理解できなかったが、自信のある表情に切り替えられる。それに笑顔で返すと、いづみはかすかに見える影人の背中を追いかけていった。


(僕は期待されてるんだ。それに、全力で応えよう)


 両手で強く頬を叩いて気合を入れると、影人のいるところまで急いだ。





 銃の装填を完了させ、周りを確認しながら走っていく。一回に撃てる弾は六発と少ないので、計画的に使わなければいけない。屋根の上に人影が見えたと思うと、右の袖に弾丸が通った跡があった。間違いなくさっきの影人だろう。手始めに一発、体に当たらないように狙って撃つ。だが、何も反応しなかった。


 疑問に思いながら動くのを待っていると、右耳に近づいてくる音があった。体がその正面に来るように回し、銃で牙を押さえる。続いて屋根から飛び降りてきた者の頭を押さえると、膝を曲げて一斉に離した。距離を保ってその後ろを見ると、奥に赤色の目がらんらんと光っている。


「すぐに終わらせてやる」


 垂直に向けた銃から飛び出した弾丸は、男性の肩にもかすらずに影狼の額を目指した。

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