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第七十八句

「まったく意味が分からない」

 爆発音を聞き、それを有明がやったと気づくのに時間はかからなかった。すぐに音のした方へ行こうと思ったが、何かがコートをつかんで離さない。後ろを向くと影狼が強く裾を引っ張っていた。構わず行こうとしてもしっかり歯が食い込んでいてどうしようもできない。破るにしても厚い素材で、影狼も思った通りに噛みちぎれない。混乱しているといつの間にか周りにふわりと軽く風が来て、コートは影狼に覆いかぶさった。


 いきなりの衝撃にこける寸前で地面に手を着くとその中でうごめいている影狼を見て刀を構えた。一直線に刺すとみるみるコートにいた影狼は小さくなっていき、開けたころには灰だけが残っていた。切れ目の付いたまま羽織り、先ほどの爆発音のせいでさらに静寂を感じるようになった塀の中を探した。


 有明は意外とすぐに見つかった。瓦礫に埋もれた影狼らしき黒い体を興味深そうに眺めているのを見つけて話しかけると、全力で頭を下げられて倍で焦る。どうやらおいていってしまったことを気にかけていたようだ。普段はあまり気づいてくれる人が少ないので泣きそうになりながらも、頭を上げるように言った。


「そんなの気にしなくて大丈夫だよ……」

「ほんとっすか⁉優しいっすね!」


 そのあと、本当に気にしなくなったようでまた影狼に目を向けた。自分で言ったものの、どこかでもうちょっと心配してほしかったというのが込み上げてきながらそれを一緒に眺めていた。


 すっかり灰になった影狼を見送り、有明が後ろを向いた瞬間だ。冬と同じくらいの背丈をした()()は突如降ってきて目を合わせた。微風が服を揺らがす。黒髪の女性はまるで夜闇にたたずむ猫のように開いた瞳孔と、気力のなくだらりとした手足をしている。花がちりばめられた着物に包まれる華奢な肩に触れようとした瞬間、目がかっと見開いて暴れ始めた。


 すぐに冬は刀を鞘にしまってそれで女性の手を押さえるが、足のストッパーが効かないくらい強く押されている。道を少し進んだところまで行っていた有明は帰ってくると松の枝を何本か女性に投げた。体を狙わず、袖や裾に刺すことでずっしりとした重みが手足を動かなくさせる。だが、それはあまり長続きしなかった。自ら枝を着いた部分を破いたのだ。身軽になり、さっきよりもさらに強い力で建物の壁まで追いやられた。


『山里は――』


(いや、違う)


 何か違和感を持った冬は能力を発動させようとする口を止めた。


(この人に僕の能力は通用しないんだ)


それと同時に女性の頭の上を見上げると有明に向かって叫んだ。


「有明さん!この方の頭の上に刀か何かを通してください!」


 松の枝は何本か余っている。その中でも一番鋭いものを持って女性に近づくと、頭の上に枝の先端を通過させた。何度か糸のようなものが引っ掛かる。通過させ終わるとさっきまでの勢いはどうしたのやら、冬の刀から手を離してその場で倒れこんだ。


 ゆっくり仰向けにすると、異変に気が付いた。肌が異常なほどに白い。そして体が冷たい。その意味が分かったとき、有明は思わず口元を押さえていた。冬はコクリとうなずく。


「冬君、もしかして……」

「はい、この方は()()()()()()()()。影人になる前に」


 大きく開いた瞳孔、冷たい体、死人と考えれば見当のつくことだ。影狼はすでに死んだ者までも利用していた。肩に触れると細い糸が冬の手に絡まった。


「これ、見てください」

「糸っすか?」

「うん。多分、これで立たせたりしてたんだよ」


 普通は噛まれたらすぐに影人になるが、この女性はしばらく経ってから暴れはじめた。もしかしたら、影狼は影人の動きだけでなく毒を広めるタイミングまで操作できるのかもしれない。まさか亡くなった者まで利用するとは、本当に卑怯な奴だ。


 操られていたということは、まだ大量の影狼がいる。屋根の上から覗き込んでいた二つの目に睨み返すと、二人は屋根に飛び乗った。

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