第七句
「一人は……さびしい」
先ほどの鵲をきっかけにして、影狼は次々とこちらに攻撃してきた。慣れた手つきでやっていく二人だがやはり量が多くて手が回らない。
(どうする? そろそろ句能力を使うか……いや、あれは制限があるからもっと重要な時ではないと駄目……)
「しだりさん!」
鵲の声にハッとして気配がしたほうを向く。そこには大きく口を開け、鋭い牙を見せた影狼。
(油断していた……!)
『鵲の 渡せる橋に 置く霜の』
いつもの気取った声ではなく、純粋でがむしゃらに叫んでいる少年の声がしだりの耳に届いた。
鵲の句能力:特定のものを自分に引き寄せる
目の前にいた影狼がさっと消えて、鵲のいる方へと引き付けられていく。まるで磁石のようだ。吸い寄せられていった影狼は傘の先端に頭が当たった。
「僕の友達を虐めるな」
小さい音と共に影狼はその場で気絶した。しだりは立ち上がって服の汚れを少し払うと鵲に近づいた。
「まさか……さっきの影狼はお前が句能力で集めたのか」
「バレちゃった。でも、僕は本当に動いていませんでしたよ? だって能力にかかっちゃう影狼が悪いんだもの」
照れくさそうに笑った鵲にしだりは安心して、少し表情が緩んだ。
「その……さっきは……助けてもらったな。感謝してる」
「素直になればいいのに」
「……うるさい。まだ残党はいる、手分けして片付けるぞ」
反対方向に行き、影狼を探しているとしだりは違和感を感じた。さっきまで大量にいた影狼の気配がどこにもいない。ふと、最悪のパターンが頭に浮かんだ。それはあってはいけないことなのだが、それとしか思えなかった。
「アイツ……能力の解除を忘れている……?」
そうだとしたら鵲は今、危険な状態だ。しだりは鵲が行った道を思い出しながら走った。
「ギャァッ!」
暗い町はずれ、鵲は大量の影狼を相手にしていた。
(さっきもたくさん倒したはずなのに、なんでこんなに量がいるんだろう?)
鵲はそのことをふとした疑問にしか思っていなかった。
「ウ゛ゥ゛……」
少年を囲む目は、憎しみや恨みが込められているようだ。
「大事な友達がいなくなるくらいならこれくらい大丈夫!さぁ、早く来て!」
鵲に、黒い影が襲い掛かる。
『あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の』
しだりがそう叫んだのは嫌な気配を感じたからだ。
しだりの句能力:時間の流れを遅くする
今まで少し強く吹いていた風がぴたりと止まった感覚がした。だがよく見ると風で飛ばされている木の葉がゆっくり進んでいる。そんな有利な環境の中でもしだりは走り続けた。
(ひとまずこれでよさそうだ。だがこれは知人が近くにいると使えない。それか能力が発動できても近づいていくたびに自動で解除される。でも――)
しだりは意地悪な笑みを浮かべた。
(能力の効果が薄れてきたら鵲の位置がわかる!)
しだりはこの欠点を逆手にとって使ったのだ。少しでも時間が稼げるよう、全力で走った。しばらくまっすぐ走るとだんだん風が強くなってきた。あと少しだ。耳を澄ますとかすかに影狼の唸り声が聞こえてくる。そして、少年の声。
(いた!)
すぐさま声のした方に向かうとしだりは衝撃的な光景を目にした。鵲が今にも影狼の群れに襲われていたのだ。
「鵲!」
反射的に叫んで、気づいたときには鵲の前に立っていた。
「しだりさんッ!」
一瞬沈黙が走ったと思うとそれを壊すほどに大きな声が鼓膜を通った。
「大丈夫ですか?」
「俺は……」
「少し寝ていただけです。立てますか?」
「あぁ……っ痛!」
突如肩から激痛がした。見ると不慣れに巻かれた包帯の上に赤い血がついている。
「しだりさん、僕をかばって影狼に噛まれたんです。包帯は僕が巻いたの……」
影狼に噛まれると、弾丸が体を貫通した時と同じくらいの痛みがする。たとえ応急処置をしたといえど、その痛みは変わらなかった。
「心配してくれて、ありがとう」
自分にできる精いっぱいの感謝をすると、鵲は目を輝かせた。
「鵲、能力は解除したか? 」
「うん、さっきは気づかなかったから、しだりさんがこんな目に……」
「もう一度能力を発動してほしい」
「でも! しだりさんが! 」
「俺は大丈夫だ。早く帰って治療しよう」
鵲が顔を上げると、そこには先ほどの意地悪な笑顔をしたしだりが手を差し伸べた。
「反撃開始だ」
豆知識
皆の見た目は作者とお友達で決めています。
投稿が遅くなってしまいすいませんでした。