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番外編:マトモ枠会議

「俺はマトモだ!」

「つくし君いた⁉」

「いや、どこにもいない!」


 とある休日の朝、リビングにいた二十四人総勢でつくしの捜索が始まった。お手洗いに行くと言ったきりもう三十分は帰ってきていない。館を探したが気配すらもつかめなかった。


「淵さんの部屋は?」

「もう三回電話したけどつながらない!」

「クソッ、集中時間(ゾーン)に入ったか!」


 いきなり長月の携帯が鳴る。画面を見て舌打ちしてから相手との会話を終えた。


アイツ(天つ)から連絡入った!森で木に登る様子を見たってよ!」

「はぁ⁉蝉かよ!」

「よし、館から半径十キロメートル以内を包囲しろ!」

「「了解!」」


(※しばらく、つくしを全力で探す百人一魂たちにお付き合いください)





 まもなく屋敷に入ってきたのは夢に縄で縛られたつくしだった。言うまでもなく腹を立てている皆の前にちょこんと座った姿はしおらしくなっている。


「つーくしくん。なんで逃げようとしたのかな?」

「だってもう仕事十個やったじゃねぇかよ」

「別に追加でやってくれてもいいんだよ?」


 互いに正論で勝負している山風とつくしを横目に長月は「マトモじゃねぇな」と独り言をつぶやいた。それに反応し、つくしは首をそちらに向けた。


「いやお前らもだろ」

「「はぁ⁉」」


 その瞬間、部屋の空気ががらりと変わった。皆緊迫感のある目をしている。瞬時に各々がダイニングテーブルを取り囲み、中央に座った山風が両手を顔の前で組む。


「これより、『マトモ枠会議』を始める!」

「……いきなりどうしたんだよ」

「さっきの君の言葉に皆が反応したため、この部屋にいる者で誰がマトモ枠かというのを決める会議を行う。司会は一番のマトモ枠であるこの僕だ」

「「アンタは一番ない」」


 全員から冷ややかな目線を向けられているのにもかかわらずそれを無視してつづけた。まず、かづらが立ち上がって発言する。


「とりあえず、ふしさんと千々さんは固定枠だと思います」

「え、僕は?」

「山風さんは一旦黙ってください」


 強く言われてショックを受けた山風は顔を下にして手で覆った。話を続ける。


「お二人は迷惑をかけている部分がありませんから。というか、逆にいつもお世話になっています」

(それって……)

( “個性がない”っていうことでは?)


 あまりに深読みをしすぎて今度は二人が落ちこんだ。記録の夢がつたない字で固定枠の下にふしと千々のマグネットを貼る。次は長月についてだ。今までの言動からしてマトモ枠からは外れる流れになっていた。だが、「異議あり」と叫んで立ち上がった。


「俺は“準”マトモ枠だ」

「ほう、何が違うんだ」

「例えば漫才で考えて見ると、マトモ枠はツッコミに入る」

「何が始まったんだこれ」


 つくしの疑問を遮りつつ力説はどんどん展開していった。


「だが、たまに()()()()()()()()ということがあるだろう。それが準マトモ枠だ」

「「おぉー」」

「コレ俺がおかしいのか⁉」


 全員からの拍手喝采に戸惑いが隠せなくなってきた。夢が新しく“準マトモ枠”をつくり、長月のマグネットを下に貼った。ふと夢が小さく手を挙げる。


「あのー。僕は……」

「マトモ枠?」

「いや、動物性のもの食って発狂するやつに完全なるマトモ枠は譲れない」

「それな」


 確かに、夢は動物性のものを食べると発狂してしまうという不思議な病気がある。だが本人に自覚はないので最初は納得しなかったがそれっぽく流して夢は自分の名前を準マトモ枠の場所に置いた。残るはつくし、山風、錦、かづらだ。かづらに要望を聞く。


「僕は……特に何も迷惑かけてないのでマトモ枠ですかね」

「異議なーし」


 着々と話が進んでいく。全員が特に頭を悩ませたのは錦だった。「いつも寡黙で話し出したら知識がたくさん出てくる」という性格をどこに納めればよいものか、迷わないはずがない。準マトモ枠に動かしそうになった夢の手を、山風が止めた。


「夢君、それはない」

「えっ――なんで」

「長月君、準マトモ枠の定義を述べたまえ」

「準マトモ枠とはボケとツッコミ、どちらも担当するもののみだ。今までの言動から考えて錦さんは一回もツッコミをしていない!」


 激闘が繰り広げられている中で錦は本を勢いよく閉じ、「異議あり」と静かに言う。


「違う。僕はマトモだという証言が出ている」

「誰から?」

「友達から。 “みゆき君”っていうんだよ」

「みゆき君誰だよ」


 袖から出された携帯には音声レコーダーの画面。再生すると、 “みゆき君”なるものの声が再生された。


『錦君はマトモです。判断力のない僕にいつも良いアドバイスをくれました。僕の大切な友人です』


 そこで音声は切れており、目線を元に戻すと皆して涙を流していた。


「いい友達だねぇ……」

「泣いちまうじゃねぇか」

「言わされてる気もするがな……」


 疑いはなくなり、晴れて準マトモ枠へ入った錦は再び本を読み始めた。これですべての者の配置が決まった。ホワイトボードに表が提示される。以下の通りだ。


マトモ枠:千々、ふし、かづら

準マトモ枠:長月、夢、錦

Notマトモ枠:山風、つくし


「俺にも弁解の時間くれよ!」

「つくし君は明確だよ」

「あと表記の統一してくれよ!『異常枠』とかでいいだろ!」


 このまま自分が異常であることを認めてしまうのかと周りの者は思いつつも、こうして第一回『マトモ枠会議』は幕を閉じたのであった。





〜オマケ〜


「そういやぁ、お前は何で『Notマトモ枠』になったんだよ」


 会議の片づけをしながら、つくしは山風に問う。


「アンケートで決めたんだ。見る?」


『問、山風はマトモか否か(回答数:二十三件)』


マトモ:(ゼロ)

違う:二十三件


「なんでこうなったかねぇ」

「いや聞くまでもねぇだろ」

 明日から新しい章を投稿します。毎日投稿は変わりませんが、投稿時間を十二時ごろに統一します。今後とも、百人一魂をよろしくお願いいたします。

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