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第六句

「雨が降ったら、神様への感謝なんて忘れてしまいそうだ……」

 呼吸を整える間もなくしだりが向かったのは、先ほどの男性のもとだった。もしかしたら戦っているときに逃げられたかもしれない。その予想は間違っておらず、まだ近い距離だったもののすぐこちらに気づいて気まずそうな顔をした。


「戻れ」


 しだりが放った三文字で男性は飛ぶように戻って滑り込みながら土下座の姿勢になった。


「わ...私は何もしておりません……。どうか命だけは!お願いします!」


 男性の胸ぐらをつかむと軽々と持ち上げ、低い声で話した。


「さっきの奴を見たか?あの忌々しい狼を。お前はアイツらを知っているのではないか?違うか?」

「違います! 本当なんです! 信じてください!」

「ねぇしだりさん」


 近づけない雰囲気の中、鵲は何も気に留めずしだりに話しかけた。


「あ゛?」

「その人は本当に影狼じゃないよ」

「なぜだ?」

「だっておかしいんだもの。人が夜に出歩くなんて普通のことじゃないの?それに本物だったらとっくに僕たちを襲ってくるはずだよ」


 その言葉に対して少し関心を持ってしまったしだりは、男性から手を離した。


「大丈夫ですか?よかったら家まで送りますよ」

「あ……ありがとうございます」


 鵲が笑顔を見せると、男性は少しほっとしているようだった。





 男性を送った後、影狼探しに戻った二人は何もしゃべらなかった。ふと、しだりが足を止めた。鵲が不思議そうな目をして振り返る。


「なんでお前はアイツが影狼ではないと思ったんだ」

「さっき言ったじゃないですか」

「違う。確かにお前に考えは的を射ている。でもそれが自分を人間だと思わせる嘘だったらどうするんだ? 」

「その証拠があったからそうだと思ったんですよ」


 だんだんと鵲の回答に腹が立ってきた。とうとう我慢の限界となったしだりは正直に言うことにした。


「正直に言う。俺はお前が信用できん」

「どうして?」

「お前はいつも妄想ばかりしていて、自分の目の前にあることから逃げているからだ。さっきだって本当は自分が正しいと俺に思わせる立派な台本(セリフ)なんだろ!」


 そこまで言い終わるとどうだろう。いつもはすぐに返ってくる声がない。代わりに鵲は今まで見せたことのない表情をしていた。確かにいつもの通り笑っているのだが、何かが後ろにいるような悪寒がし、いつも目の中にある星が見えない。


「……確かにそうだね」

(なんだ? いつもと様子が違う)

「ここで長話をするのもあれだから、歩きながらいきましょう。夜は永遠に続かないから」


 二人は歩き始めてから、しばらく靴と地面がこすれる音しか聞こえなかった。


「ガルルルル……」


 もはや何も音がなくなった世界に、突如としてその鳴き声は響いた。


「……しだりさん」

「俺も聞こえた」


 すぐさま二人は武器を構えた。しだりはさっきのように打刀を出し、鵲は自分の腰ほどの長さの傘を取り出した。柄は藍色の生地にやはり星座の刺繍がある。その先端を声がした方に向けると傘を開くボタンを押した。すると、先端から何かが飛び出してそれと同時に木の上から泡を吹いて倒れている影狼が現れた。頭には針のようなものが刺さっている。


「あ、ちょっとずれちゃった」


 どうやら鵲が持っているのは毒針が打てる銃を傘にカモフラージュしたもののようだ。塵になっていく影狼を静かに見ていると二人の背中に悪寒が走った。後ろを振り返るとそこには大量の黒い影。先ほども十分多かったが、今の方が断然多い。きっとここ一帯の影狼は全て目の前にいるのだなと感じるほどだった。


(しまった、囲まれた……!)


 冷静に武器を構えるものの、しだりは内心焦っていた。


「ねぇしだりさん」


 ハッとしてその言葉に反応すると、鵲がこちらに輝く目を向けていた。


「この世は神様が決めた運命で動いてるよね」


 いきなりわけのわからないことを言い出したと思うと、影狼が歯を食いしばってこちらにゆっくりと向かってくるのが分かった。


「何を言って……」

「でもさぁ、もし自分がやったことがいいことだったらそれは神様のおかげじゃなくて自分のおかげだと思うよね?」


 どんどんスピードが上がってくる。


「僕も思うよ。こうなったらいいなって思ったことが本当にできたら自分のことをたくさんほめてあげるの。そしたら、神様の存在なんて忘れちゃうよね」


 そして、鵲の上に黒い影が飛び掛かった。


「もし、もしそのことが本当なら僕は神様なんていらない。自分の力で生きていくの」


 傘の先端を影狼へとむけると毒針を撃った。すると、鵲に血の雨が降り注いだ。





「今日もいい日だね」





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