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第六十四句

「俺は俺のやり方があるんだ」

 町の人々はその鳴き声で後ろを向いた。何が何だかわからないが、先ほどまで街を歩いていた者が急に自分たちを襲ってきたのだ。驚かないはずがない。目線の先には王者の風格をした狼がいたのだ。次から次へと襲ってくる不可解な出来事に混乱が増していく。狼は目をつぶっているので盲目だと受け取れる。


 さっきまで大騒ぎしていた声が止んだ。それと同時に狼が遠吠えを披露すると、何人か知っている顔も確認できる集団が周りに群がった。その数は町の前に押しかけていた者の半分だ。


「ちょっと!なんでそっちに行くのよ!」

「戻ってこい!」


 あの狼には惹かれる何かがあるのだろうか、と思いつつその光景を見ていた。先頭にして森のほうへ進んでいく狼の姿を、ただ見つめることしかできなかった。





 淵が行く頃には姿見に入ったときのにぎやかさも、人の姿もなかった。ただ、中央に何か見える。黒い点としか見えなかったそれは近づいてきた。目を凝らすと、影狼に先導されている影人ではないか。あちらも気づいたらしくいきなり速度を上げてきた。ケインを構え、ただ目の前に来るのを待つ。影狼は高く跳んだかと思うと、肩くらいの高さですれ違って視界から消え去った。


 探そうと思った時に影人が手を掴んできて、振りほどきながら相手の両足の間に左足を入れて巻き付けた。体勢を崩して、腕から手が離れると側にいた影人の腹をケインで叩いた。また目の前に来たが、ケインを振る前に足が飛び出してきて後ろの者もドミノのように倒れていった。目線を移すとやはりつくしがいた。


「わりぃ、遅くなった」

「俺の後ろに行った影狼見なかったか」


 一息置いてから、首を横に振る。特に重要なことではなかったのでとりあえず目の前の影人たちに集中した。流れるように、二人が通ると側にいる影狼が倒れていくくらいの速さで仕留めていった。手足がボロボロになりながらもその速さは変わらない。たまに倒した影人は泥のように溶けてゆき、影狼へ戻っていった。


 息切れする事にはもう全員が倒れていた。あとは、何か説明を付けて影人になった人を帰すだけ。だがここで、何か違和感を感じた。つくしの背が大きくなった気がする。もともと自分より高いとは思っていたが、頭をずっと見つめていると()が動いていた。影狼によく似た、尖っている耳――。


「ギャ―ッ!」

「うるさっ」


 最初につくしと会った時と同じくらいの声量で叫ぶと、一気に体温が冷たくなる感覚がした。


「耳⁉」

「ん?あぁ、解除し忘れてたな」


『みをつくしても 逢はむとぞ思ふ』


つくしの句能力:動物・植物に変身


「説明してなかったな。俺は能力で動物とか、植物に変身できる。つっても影狼と同じように一回粘土みてぇになってから形成されるからこういうことがあるんだよ」

「さっきの影狼ってもしかして……」


 そう言ってさっきの先頭にいた影狼を思い出した。多分目の色は同じにできなかったから閉じてごまかしたのだろう。ただの気分屋だと思っていたがちゃんと考えられている。


 町の影狼たちはつくしによってもういなくなっただろう。淵の提案で森に入って影狼のたまり場を探すことにした。早速入っていくと、気持ち悪いくらいに人が木の幹の上に寝かされている場所を見つけた。だが、そこには影狼の気配がなかった。場所をごまかすためだろう。


 ふと、前を見ると大量の目がこちらをにらんでいた。目をそらそうと後ろを向いたが、そこにつくしの姿はなかった。その代わり、少し離れたところで粘土のようなものがうごめいていた。たちまち影狼と同じくらいの大きさの狼になり、こちらをしばらく見つめると袖を引っ張って前に進んだ。


 何をする気かはわからないが、導かれた方へ行くと――影狼が淵を囲んでにらんだのだ。袖から口を外し、つくしもその中へ入っている。まさか、裏切られてしまったのだろうか。思わず、目が泳いだ。 

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