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第六十一句

「そんな……ひどい」

「ギャーッ!」


 午前八時、周りの者はこの淵の悲鳴で起こされた。今までも少し変わってるとは思っていたが、今回は重症らしい。すぐに駆け付けたのは天つ、雪、辰巳だ。


「どうしたんですか?」

「へ、部屋に……知らない奴がいて……」


 おびえながら下に向いた目線についていくと、そこには長身で長い髪を高いところでまとめた男性が幸せそうな顔で眠っていた。三人もつられてぎょっとしてしまう。


「寝ずに頑張る俺の横でのうのうと寝やがって……」

「いやお前はいつでも寝られるだろ」


 辰巳からの鋭いツッコミが入ったところで男性は起きたらしく、眠そうに目をこすった。あたりを見回して目の前にいた天つたちを見るとまた眠りに入った。


「二度寝すんなっ!」

「……何だようるせぇなぁ」


 ようやく言葉を発してくれたその男性に、雪は目線を合わせながら話した。


「君は、どうやってここに入ったの?」

「正面の扉から。いい寝床はねぇか探してたらコイツの部屋にたどり着いた」

「はぁ⁉初対面の人に“コイツ”とか言っちゃいけないんですぅ!」


 怒りが収まらない淵をなだめながら話を聞くと、どうやら何も気づいていないのが面白かったらしくそのままいたらしい。淵も淵で、気づかないほど集中していたのは尋常ではない。その時、海人がおどおどしながら扉の前に姿を現した。一斉にそちらを向くと何やら後ろで逆らえないような雰囲気を持った者がいる。麦わら帽子をかぶった青年、山風だった。


「な、ん、で、ここにいるのかなぁ?」

「あ、終わった」


 指の関節を鳴らしながら近づいてくる山風におびえるように、男性は淵のゲーミングチェアに隠れた。さっきとは別人のような、子供のような顔をしているのに淵は手を差し伸べると、男性はそれをゆっくりつかみ――首根っこを掴まれて山風に引き渡された。


「良かったですね、淵さん」


 問題はもう解決したというのに、顎に手を当てて何かに集中している顔をしている。もう一度呼びかけるとこちらが驚くくらいの声量をあげた。周りにあった空の缶が何本か床に落ちるほどの衝撃が部屋に広がる。


「大丈夫ですか」

「あ……うん」

「何か言っているようでしたけど」

「なんか、アイツを山風さんに渡したとき、小さい声で言ってたんだ。『初対面じゃねぇよ』って」


 男性に対しての二人の疑問は、深まるばかりだった。





 一方、その男性の前には険しい顔をした山風、長月、かづらが立っている。縄で縛られた男性は大きなあくびを一つした。


「さぁて、つくし君。今までどこにいたのかなぁ?」

「ずっと山にいましたー」


通称:つくし

管理番号:020

主:元良親王(もとよししんのう)


 どうやら男性の名は「つくし」というらしい。つくしは全く反省の意を表そうとしていなかった。三対一の取り締まりを横目に、ふしと夢はため息をついていた。


「まったく、どっちもどっちですね」

「博士は名前を言っただけで怒りそうになってたし、今回は重罪な方だね」


 つくしは百人一魂屈指の気分屋で、突然館を飛び出しては長くて半年帰ってこなかったりする。博士は相当ご立腹のようなので他の者からもきつく言っている。


「つくしさんは主の影響が多い感じだね」

「え、そうなんですか」


 その向かいに座っていた錦は茶を一口飲むと話し始める。


「彼の主は恋愛で有名なんだ。一度行った女の人のもとにはいかなくなるから、『一夜巡りの君』なんていわれてたんだって」


 他にも、彼の主である元良親王には様々なエピソードがある。主譲りだとはわかっていてもここまでの問題児はレアケースだ。山風が博士に電話をすると、低い声が聞こえた。


『へぇ、つくし君帰ってきたんだ。じゃあ十件は仕事をしてもらわないと』

「多すぎないか⁉」

『だって、いなくなるタイミングがわからないんだもの』


 キーボードを打つ速度がいつもより早い気がする。すぐにエンターキーの強くはじかれる音が聞こえ、再び会話に戻った。


「じゃあ早速行ってもらおうか。サポートは……」


 淵の携帯には、「博士」の二文字が並んでいた。

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