第五句
「貴方様が私の支え……」
「はい、なんでしょう博士」
朝の9時ごろ、電話に出たのはしだりだった。
『仕事を頼みたいんだけど、いいかな?』
「はい。わかりました」
『それで、鵲君と一緒に行ってほしいんだ』
「アイツですか……」
『……しだり君、確かに鵲君は想像力の広い子だ。でもそこは否定しないであげて、ね?』
少しむっとしているしだりに優しく話した。
「……わかりました」
『よろしく』
電話を切った後、しだりは鵲の部屋に向かった。
「はぁい」
二回ほどノックをするといつも通りの声が聞こえた。部屋に入ると天井には広大な星空――ではなくプラネタリウムが映し出されていた。
「あ、しだりさんどうしたの?」
本人はベッドの上に座っていたので、きっとさっきまでプラネタリウムを見ていたのだろう。
「博士から仕事が来た。さっさと準備しろ」
「うん、わかった!」
こんなことを言われたら誰でも傷つくと思うが、鵲は少しきょとんとしてからすぐ笑顔に戻って準備をし始めた。
いつも通り姿見の中に入ると、そこにはさっきのプラネタリウムより何倍もきれいな夜の町があった。星がまるでさっきちりばめられたかのように輝いている。
「わぁ……とってもきれい」
「……早く行くぞ」
移動している最中も、鵲は星を見ながら独り言を言っていた。
「ここで魚が泳いだら星はえさになっちゃうのかなぁ……ふふ、星座がなくなっちゃうかも……」
しだりは苦い表情をしながらその様子を見ていた。
夜ということもあり、人はあまりいなかった。途中、民家の後ろで足音が聞こえた。それは静かな町の中でひときわ目立っている。しだりは打刀を出して息をひそめた。
「音がしたほうに行く。お前はここで待ってろ」
「わかった」
鵲を置いて民家の裏側に行くと、黒い影が見えた。
「おい、何をしている?」
その影は上を向いたかと思うと、焦った様子で逃げ始めた。
「待て!」
しだりは月光でかすかに見える姿をたどりながら軽々と民家を超え、ついに追い詰めた。見ると位の低い者の格好をした男性だった。
(普通の村人か……。だが、影狼が化けている可能性もある。ここは問い詰めるのが一番だな)
「質問に答えろ。お前はさっき何をしていた?」
「ね……眠れないので少し外に出て……ひぃっ!」
おぼつかない喋り方にさらに疑いが増したしだりは男性の首元に切先を向けた。
「演技の上手い影狼もいるものだ。だが、もう一度聞く。さっきお前は何をしていた?」
「わぁぁぁぁぁぁ!」
沈黙が続く環境の中、いきなり鵲の声がしたと思うとその後ろに大量の影狼がいるではないか。
「なっ……なんでお前がここに!」
今はそんなことではないと首を振ると、影狼の大群へ走っていった。打刀を構え、壁のように積み重なっていく影狼を階段のように飛び越えながら空中で刃先を下に向け、そのまま自分の体重で下に降りた。すると同時に影狼が串刺しのようになり、あっという間に灰が残って他の影狼の体勢が崩れた。残りの影狼が襲ってくるがしだりはその剣さばきで次々と倒していった。
「あ、しだりさん!」
「馬鹿!なんであそこから動いた!」
「僕は動いてないよ、影狼からこっちに来たの!」
とうとう呆れてしまい、無言で戦いに集中し始めた。何匹かでまとまって飛び掛かってきたがそれよりも先にしだりが高跳びのように影狼を飛び越え、背面で刃先を影狼の体に向ける。すると空中で血と共に灰が空へ舞った。
そして、また街に沈黙が来た。
お知らせ
最近たくさん投稿してきましたが、作者が素人ゆえの行為なので週一投稿に戻ります。土曜日の15時くらいに投稿しているので引き続き見てくださると幸いです。