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第五十六句

「私は好きなことをしていたいんだ」

 二丁拳銃の引き金が次々と引かれ、かづらは中央にいた女性以外の者を撃っていった。外すことなく影狼となって倒れていく。他にいないのを確認してから女性のほうを向くとその目は開かれていた。あの集団の中だったら一直線に目が行くであろう鮮やかな赤をしている。逃げようと考える間もなく鋭い爪が横から視界に入っていった。


 やはり操られている。ただ噛まれただけでは勝手に行動してしまうのでそうしたのだろう。再びサネカズラの蔓を出して体を傷つけぬように縛ったが、いとも簡単に引ちぎられた。その状態で操作してくれれば居場所が簡単につかめると思ったもののやはりうまくいかない。


 銃をしまって蔓を増やすと自然に周りの木へ巻き付き始めた。これは蔓自体の特性であり、かづらはそれを誇張しただけである。蔓が絡んだところが見えていたということは近くにいる。だが地上にいたら角度によっては見えにくくなってしまうので木の上にいるのではないかと考えた。ここらは木も高く普通の森よりも暗いのでうってつけの隠れ場所だろう。めきめき成長してくサネカズラを見ながら周りの木を見渡す。


(感覚共有はしていないけれど、あれは影狼も無視して巻き付く。一瞬でも秩序が乱れたら――)


 その時、わずかだがサネカズラが大きく伸びたのが分かった。ちょうど正面の木だ。試しに幹に撃ってみると驚いて女性が飛び出す。それをひらりと右へよけるとそれに吸い付くように追いかけてきた。伸ばされている腕をつかむとなぎ倒した。立ち上がる前に左手の銃を置き、影狼に的を合わせるが女性が足を掴んできた。引っ張ってもなかなか離れない。


 自分が力を強くするたびに女性の力も大きくなっていく。少ししか見えないが、血が行き場を失って周りが赤くなってきた。しびれるような痛みもある。一刻も早く離してもらいたいが、それなら操っている影狼を倒す方が早いのだろう。我慢しながら銃をもう一度構えた。息が荒くなっていく。集中力がなくなっていく。それでもかづらは手の震えを押さえながら的を合わせた。





 


 千々は逃げるようにしてあの場を離れた。だいぶ数が多かったようだが、かづらは大丈夫だろうか。影狼も見当たらず暇をしている自分に罪悪感が襲い掛かってくる。太極剣をぎゅっとに握りながら進むと耳の奥に破裂音のようなものが広がった。


 一瞬耳を塞ごうと思ったが、後ろから大木が倒れてきて千々を襲った。幸いなことに少し位置がずれて当たることはなかったが、こんなに巨大な木が勝手に倒れるのだろうか。自然に倒れるにしても、人が切ったとしてもそれは周りとの違いは一目瞭然だ。だがどんな方法でやったのだろうか。


 考えているうちにまた木が倒れてきた。しかも今度は四方から立て続けに来たので足場がなくなっていく。逃げながら一番最近に倒れた木の根元に走った。周囲には人どころか誰もいない。断面は波打っており、雑な切り方をしている。


(表面の感触からして、ちゃんとノコギリで切っている。でも、あまりに雑すぎる。早く切ったのかな?大工の影人でもいたら便利だとは思うけど……)


 そういえば、自分がここに来てから一度も木は倒れていない。一か八かで倒しているわけではなさそうだ。そうして、一つの仮説にたどり着いた。


(違う。()()()()()()んだ)






 思ったよりも早く銃口を飛び出した弾は綺麗な軌道で影狼のもとへ向かう。かづらはほっとしたのもつかの間、目を見開いた。


「当たって……ない」


 わずかにずれてしまい、当たらなかった。がっくりと肩を落としながらも、新しく得た情報に胸を弾ませた。避けるときの木の葉の音が聞こえたのだ。だんだんと外側に避けていく。木の背は高いが、だいぶ細いのでもう少し端に寄ったら落ちてくるかもしれない。足首が紫色に変色しているのをみてタイムリミットが少ないことを実感すると、また両手に銃を構えた。

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