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第五十四句

「僕はどうしてこんな目に……」

 山風の足音が聞こえなくなった後、長月は部屋の外にも聞こえるように大声で言った。


「いるんだろ、早く出て来いよ」


 少しして出てきたのは、天つだ。眼鏡をクイッと上げて話し始めた。


「やっぱり、気づいていましたか」

「当たり前だろ、アンタが近くにいることくらいわかる」

「ストーカーですか?感心しないですね」

「ストーカーはそっちだろ」


 いつにも増して鋭い目つきで話す長月に困り眉をして目を合わせる。そこから目線が腕や体に行ったのが分かり体を丸めた。


「冗談ですよ。それにしても、あれほど言ったのに。自由に暴れすぎるとあなたが危険だ、と」

「自分の心配なんかしてられるか」

「最初に説明したでしょう?一番安全で効率の良い……」

「効率がなんだ!安全がなんだ!悪いが俺は自分のやり方でやらせてもらう!」


 まるでどこかの教祖のような口ぶりの天つに腹が立って声を張り上げた。ため息をついて話を続ける。


「 “親の心子知らず”ですか……」

「俺は認めてない。アンタみたいなやつの主が()()()()()()なんてな」


 しばらくにらみ合うと、天つは諦めて部屋を出ていった。さっきまで自分の嫌いな人がいたと思うとむしゃくしゃする。ジャージに着替え、前髪を顔の前に持ってくると布団にうずくまった。


(あんな言い方ないよ。僕も、あの人も……)


 決してあの人だけが悪いわけではない。と、もう一人の自分がささやいた。





「出てこないですね、長月さん」

「仕方ないですよ。彼には彼なりの考え方があります」


 リビングでは、仕事もなく暇をしていた者が長月の心配をしていた。夢とかづらが話している横で本を読んでいる青年が顔を上げた。


子子子子子子(ねこのこのこねこ)子子子子子子(ししのこのこじし)?あ、合ってる」


通称:(にしき)

管理番号:024

主:菅原道真(すがわらのみちざね)


「錦君、また面白そうな文を読んでいるね」

「ふしさん。これは海人さんの主が解いたそうで……」


 肩にかかるかかからないくらいかの髪と落ち着いた雰囲気に相反して、顔立ちは幼く服装も平安の子供が着るような服と似ている。ふしはその切れる場所が少なく長い文章を相槌を打ちながら聞いていた。主譲りの頭の良さは錦の最大の特徴だ。熱心な解説が終わりに差し掛かってきたときに扉の開く音がした。


「ただいま帰りました」


通称:千々(ちぢ)

管理番号:023

主:大江千里(おおえのちさと)


 カーディガンを着こなした爽やかな雰囲気の青年が荷物を置いて椅子に座ろうとした途端、机から何か飛び出してきた。


「うわぁっ⁈」

「あ、ごめん。だれか驚かせようと思ってびっくり箱仕掛けてた」

「山風さん⁉」

「そういえば千々君の主って……」

「ちょっ、錦さんまで」


 彼はいつもこのなかで一番の被害者である。一気にうるさくなった部屋の中に携帯のバイブレーションが響いた。


「はい、もしもし」

『かづら君、仕事を頼みたいんだけど……』

「いいですよ」


 博士は後ろから聞こえる騒音の中で、平然として対応したかづらに冷静すぎるなと感じた。とはいえ時間がないので話を進める。


『かづら君と千々君にお願いしたいんだ』

「わかりました……」


 ふと千々に目をやると、四方からくる言葉たちに混乱してめまいを起こしそうになっている。


「大丈夫そうです」

『本当に?』





 姿見に入ると、空を隠すほどの木々が連なった深い森の奥にいた。かづらの横には疲れ果てた千々がふらふらとしていた。さっきとは異なり中華風で涼しい素材の服を着ている。先ほどは見えなかったが左耳にイヤリングが揺れていた。


「勝手に仕事を承諾してしまいましたが、平気ですか?」

「逆に助かりましたよ。あそこから逃げ出せなかったら気絶でもしていたんじゃないでしょうかね……」


 作り笑いで対応していると乱暴な「バタン」という音が聞こえた。同時に後ろへ振り返ると一瞬で扉が作られ、南京錠が閉まるところだった。ただ茫然と見ているだけしかできず、静かになってようやく気が付いた。早く影狼を見つけないといけない。


 周囲に気を付けながらその森を進んでいった。

今回はセリフが多かったですが、読みやすかったでしょうか?

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