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第四十五句

「なぜこんなことを……」

「なっ――」

「案内役の……早く逃げて!」

「~っ!」


 一応異国の使者の案内役としている身だ。下手に戦うと傷つける恐れもある。それ以前にと人前で戦いを見せることがだめだ。救いたいという気持ちとばれてはいけないという気持ちのはざまで揺れ動いた。


(自分のために人を見殺しにするなんて駄目だ!)


 右手を胸に当て、斜めに下ろすと直刀が出てきた。左手を添え、足元にいる影狼たちへ睨み返す。ひとまず女性から遠ざかるようにしなければならない。身軽に正面の影狼をぐるりと一回転して飛び越えると、左手を女性の前に伸ばして「近づくな」と訴えた。 


「この人に手一本触れて見ろ。僕がその手を切り落とす」


 そんな脅し文句で震えあがるような相手ではない。すぐさま後ろにいる影狼が襲い掛かってきた。着物の布へ触れる前に刀はまっすぐその腹を刺しており、灰となって崩れていく。それを見て次々と襲い掛かってくるが、先ほど影狼を倒したときにできた隙間から女性は逃げ、夢が見代わりのようにして中に入った。今回の影狼はやけに人を囲んでくる。思ったより仲間が多くなってしてしまったのだろうかなんて考えた。


 じりじりと近づいてくる影狼をひたすら待ち続けて気配が近くに感じられるようになった時、夢はもう一回転して輪の外を抜け出した。人がいなければ囲むことはあるまい。もしかしたら、さっきふしが言っていたリーダー格の命令かもしれない。この先はどう動くかはわからないので慎重に行かなければ。


 憎らしさを隠せずにいる顔を向けると、夢はそれと相反する楽しそうな顔で返して逃げ出した。と言ってもあまり離れてしまうとまた女性がどこかへ行ってしまうかもしれないので遠くても着物の色が鮮明に見えるくらいだ。思ったより単純に追いかけてくれたおかげで女性から遠ざからせるという目的は達成できた。


 今度は影狼から動き出す。もう囲もうとしても逃げ出すことはわかっているので上からだ。一匹の影狼が大きく夢の上を飛ぶと後ろに着地する。すかさずその方を向いたが、そうなると今まで前だった多数の影狼にやられてしまう。前にいる影狼を早く倒してから対応しようと思い、かまわず突進した。距離を縮めるがその影狼は全く動かず刃が届くギリギリのところで顔を左右に振ってかわした。


(そうか、仲間との距離を短くして後ろからの攻撃をしやすくしたんだ)


 そう気づいて後ろを向いても結果は同じになるのでただ前を見続けた。背中にも意識を移し、近づいてくる気配に対応できるようにした。背筋がだんだん凍っていく。それが背中全体に来た時、正面の影狼は目線を下にした。


 ――今だ。目線をこちらに戻す前に肩辺りを切りつけてからバク宙をして一定の距離を保った。焦っている顔たちの後ろには倒れた一匹の影狼。後ろを取られると厄介なので、不規則な隊形なって警戒してくる影狼たちにそれぞれ目を合わせながら動いた。


 まずは一番近い影狼だ。足を狙って下の方に振ると跳んで避けられ、真上に流れていく。夢の視界から空を隠すほど大きいその体が通ったときに、地面に寝そべって手の甲を耳の後ろに当てて膝を胸のほうに引き寄せた。肘を伸ばしてばね代わりとする同時に両足を影狼の腹へ突き出すと小さな悲鳴を上げながら葦の中へ消えていった。


 その勢いで立ち上がると刀を持ち直して目の前にいた影狼にとびかかった。最初は避けられたが、後ろに下がっていったせいか足の茂みの前まで来ると後ろ脚に力を入れ始めた。しめたと思って横に振ると見事に口で押えられて動かない。声を出しながらなんとか持ち上げるともう一度その場で下ろし、素早く刀の右側に移動して両手で力いっぱい押すと口が裂けそうになったのを防ぐために刀を放した。


 左手だけを離して脇腹のあたりを狙うと、一直線に刺さって灰になり始めた。


 安堵の息をする。女性は安全だろうか、また逃げてはいないだろうなと疑いながらも戻ろうとした。


「え――」


 体温とは思えない暖かさを肩に感じ、その直後、ありえないほどの痛みを感じた。影狼が肩を深く噛んでいたのだ。

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