第四十四句
「どうせあなたも裏切るのでしょう?」
強さは今まで戦ってきた影狼と同じ、だがリーダーと言えるくらいの計画力がある。どんな動きでも瞬発的に考えてくるよけ方や攻撃の仕方は痛いところをついてくるばかりだ。そんなことを思いながら、ふしは槍を振るう。だが戦っているうちにあちらの動きも読めてきた気がした。
(私が槍で届く範囲は広いが、背中だけは視界も行き届かないから注意を払わないといけないな。……此奴はそれをわかっている。だからさっきから後ろからくるのか)
それが分かれば、あとはどう動くかだ。その“計画”ごと丸め込むような攻撃をしたら崩れるに違いないだろう。だが、目の前にある影はいつの間にか左右にも見えるようになった。まだ仲間がいたのだ。どうやって動くのかが見たいので無視して槍を突き出すと、先にずっしりと塊がのっかった。そういうことか。自分ではなく、武器を止めればよいと考えているのか。ある程度の力だけでは振り落とせなかった。
武器はこれしかないのでこのまま続けるしかない。戦っている間に落とせたらと思って背中に回し、頭の上から大きく振るがやはり重さで速度が落ちてしまった。身軽に飛び越えられ体力的にも精神的にも限界が近づいている。さらに槍を振るたびに軋んで折れそうになるのでつい慎重になってしまう。
持ち手を逆さまにすると後ろから追尾した。両手に力がかかっているだけで足はまだ使えるのであっという間に距離を縮めていく。これには焦ったのか、たまにこちらを振り向きながら逃げていた。その時のわずかな減速を見逃さず振り向いた瞬間に顔へ向けて槍を投げようと考えた。
そして、こちらを見る――が、後ろに引っ張られた。軽く腕を引いたのがばれてしまったのか、全体重がかけられたような感覚がする。前に調べたが一般的な狼の体重は重くて五十キログラムあるらしい。体勢が崩れて転びそうになったのを柄を片手で持ったまま綺麗な側転をして立て直した。
ふしが止まったことでその場を動かずに目を合わせてる。本当はないはずなのに、口角が上がっているような気がした。
(早く仕留めないと……)
槍をもう一度構えて力任せに振ると予測していたかのように口で止められた。いよいよ動かせない。思考が混乱する中で「パキッ」という音が我に返らせる。よく見れば影狼が噛んできた一歩手前くらいに割れ目ができているではないか。このままだと折れて逃げられる。それならば、と思って槍を上に掲げた。その衝撃で割れ目は広がり、折れてしまったのだ。穂を高く上げると影狼たちは困惑して思わず口を放した。だが重さですぐに落ちてしまって間に合いそうにない。
『難波江の 短き葦の ふしの間も』
ふしの句能力:動きの速度を倍にする
先ほどより体が軽く感じられた。大きな雫の雨のようにして襲って覆いかぶさってくるのを柄で左右にかき分ける。速さと強い衝撃で何が起きたかわからないほどだ。意識を失っているのを確認すると穂を拾った。
『あはでこの世を 過ぐしてよとや』
「ウゥ゛……」
「まだ起きていたのか」
冷たい目で見降ろすと、穂を地面に貫通するくらい強く刺した。容赦なく引き抜いてその場を去った。
影狼の気配もなく、夢は草履を手に持ったまま女性の様子を見に行こうと草原を走り抜けた。短く生えた葦の先端が時々当たってくすぐったい。川に着くと、どこを見ても風にそよぐ葦と流れる水面しかないではないか。驚きの表情を隠せなくなりながらも探すことにした。
「誰かぁっ!」
(あの女性の声!)
声を張り上げたせいか話していたときよりも高く聞こえたが、間違いなく女性だ。距離はそう遠くないだろう。がむしゃらに葦を避けて進むと気配が近づいてきた。
なんということだろう。足を止めた夢の目には、おびえている女性とこちらを睨みながら囲む影狼がいたのだ。




