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第四十三句

「仕方のないことじゃないか」

「私、好きな人がいるの。その人も私のことが好きで、毎日一緒に話していたわ。……でも、最近はこなくなってしまって。知人に聞いたら他の人のもとに行っているって……」


 袖で顔を隠して泣いてしまった。女性を泣かせてしまうなんてあってはならないことだ。慌てて言葉を見つけてカバーした。


「ですがお嬢様、出会いには別れがつきものです。また新しい出会いがありますよ」


 ゆっくりと袖から目をのぞかせた女性は口は隠したままくすくす笑った。また恥ずかしいことを言ってしまっただろうかと頬が熱くなるのを感じる。


「ふふ、異人さんは言葉がお上手なのね。確かにまた新しい出会いがあるわ」


 視界が暗くなってきた。女性には帰ってもらわないと両者にも都合が悪い。


「そろそろ帰らないと、皆さんが心配するのではないでしょうか。ここら辺には妖の噂もあるそうです」


 よく使う嘘だ。疑われることなく出口まで来たが、遠吠えが聞こえた。そろって振り向くと女性に別れを告げる。急いで行こうとしたが夢の体は動かなくなっていた。何かに引っ張られている。


「待ってください。私も一緒に行きます」

「なっ――」


 あまりにも危険すぎる。どんなことを思ってそういったかはわからないが、こちらには急ぎの用があるのだ。


「誰にも言わず秘密で来てしまったから、このまま一人で帰るとその妖?に襲われてしまうかもしれません」


 言い方は大人っぽいが、簡単に言うと「怖いから一緒にいてくれ」の意だろう。断って行くなんてそれこそ問題なので一緒に行くことにした。さっきと同じ場所に戻ったが、月明かりしか頼りがないほどの暗さで雰囲気が全く違っていた。遠吠えは果てしなく響いている。


 女性は近くにいると危ないかもしれないので川のそばに待機させる。わかりやすいし周りの葦は短いのでうってつけの場所だろう。動かないでいてほしいというと女性は不服そうな顔をしたが、そこにしゃがみ込んだ。


 遠吠えのした方へ急いで向かった。回数や声の大きさからして仲間は近くにいる。手分けをして、ふしは今遠吠えをしているリーダー格であろう影狼を、夢は集まってくる影狼を倒すことにした。


 遠吠えがどんどん近づいてきた。耳の奥まで響くようになった時、目の前になんとなく気高い雰囲気を持った影狼が見えた。手前にある茂みで姿勢を低くして見ていると、あっという間に数匹の仲間が集まってくる。夢中になってみていたふしは、後ろから聞こえる音に気付かなかった。


「危ないっ!」


 夢は直刀を影狼とふしの間入れると年齢に合わない力強さで振った。鋭い刃を止めることはできず、二匹の影狼はたちまち灰になった。大きな声を出したせいか、焦って立ち上がった二人は集まった影狼たちに丸見えだ。我に返ったときにはリーダー格の影狼は指示を出して足元にとびかかってきた。


「私は奥の奴をやる、夢君は残りの奴らを!」

「了解です!」


 ふしが夢のほうへ影狼を誘導させ、多対一と一対一ができた。夢は少し離れた場所へ追いつかれないように走った。


 大人数でしかも牙には例の毒。わかってはいたが大役を引き受けてしまった。完全に囲まれた中でため息をつくと正面の影狼から刃先を向けた。


 目線が少し横に行ったかと思えば後ろから突進してきたの両手を大きく広げながらその勢いで体をねじり、首辺りを切る。続いて頭の上を飛び越えて真上で落ちてきたが、逆立ちをして前に回ると地面に叩きつけて気絶させた。追いかけてくる残党を見た目相応の元気さがにじみ出るくらい大きなバク転を何回もすると草履を脱ぎ、素足となって刀を持ち直した。


 あまりの強さに計画を投げだしたのか飛び散る水滴のように一気にまばらになって来た。だがこれにも下からすくって上げるように刀をうねらせながら切り、一撃で終わらせる。皆の驚いた顔を満足げに見ると新しい影狼を探しに行った。





(うーん。危険だとは言われたけど、やっぱり気になる……)


 女性は川の流れから目をそらして立ち上がった。

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