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第三十二句

「私が誰かと知ったら……」

「あ……」


 此のが意識を取り戻して一番最初に聞いたのは、ガチャガチャと金属らしい音だった。


「起きたか」

「なんだ、辰巳さんか」

「失礼だな」


 声を聴いて一安心すると、とりあえず謎の金属音について聞いてみることにした。


「何してるの?」

「あぁ、やっぱり姿見に扉がついてるんだが鍵がなくてな。もしかしたら例の影狼の大群が来るかもしれないから、備えておけよ」


 言い終わってまた金属音を響かせる辰巳の横で、此のは違和感を感じた。さっきのことは覚えていないが、ここに来た時からのことはうっすらと記憶がある。


「……それ最初に戦った奴じゃない?」


 それまで扉を乱暴に引っ張っていた辰巳の動きが止まり、ドアノブから静かに手を放す。


「あ、あ゛ーっ!」


 しばらく黙っていたのが、急に焦った声色が此のの耳を通り抜けていく。鼓膜が直接攻撃されているようだ。


「そんなに驚くかなぁ⁉」

「す、すまん。だがそうなると鍵はどこにあるんだ」

「最初に戦ったところじゃないの?うっかり取り忘れてるとか」


 寄りかかっている木を掴みながら立ち上がると扉の右側、最初に戦った場所へゆっくり歩いた。もちろん、細剣を杖として。


「……お前、本当に目が見えないんだな」

「そうなんですよ~。……って、あれ⁉」


 左手を頬に当てるとぺちっという音がした。自分の肌だ。頭にフードの重さもない。此のは、完全に素顔を見せた状態なのだ。


「どっ、どうしてそのことを……」

「天つさんに聞いた」

(裏切られた……)


 肩を落とした此のを慰めながら、二人は鍵を探した。運よく開けた道だったので探しやすかったが、どれだけ探しても見つからない。結局そこの捜索を諦めて今まで影狼に遭遇した場所を戻って確認した。が、隅々まで探してもなかった。


「……本番か」

「本番?」

「ほら、前にちはやさんが言ってただろ。扉をつくったのは俺らを試すためだって。今までは簡単に鍵が見つかってた。でも今は違う。こんだけ探しても見つからないってことは、もう試すのは終わった」

()()()()()()()()だね。そして僕たちが記念すべき一人目になったと」


 二人そろってため息をつく。このまま帰れなかったら自分たちはどうなるだろうか。だが、今は鍵を探さなければだめだ。見落としているところがあるかもしれないのでもう一度探しに行くことにして立ち上がったその時だ。


「おいテメェら!」

「ん?なんだ」


 振り返るとそこには、二人の身長を余裕で越える大男がこちらをにらんでいた。二人は怖いというよりその男に既視感を持っていた。


「思い出した!この人、前に辰巳さんが殴り込みに行った盗賊の長だよ!」

「だからあれは殴り込みじゃねぇって!」


 前に此のが話していた、辰巳が盗賊のアジトへ殴り込みに行ったというのは半分本当だった。だが実際は、そこに影狼が忍び込んでいたのを倒そうとして妨害されたのでついでに懲らしめただけだ。だが、その時は検非違使(けびいし)に引き渡してとらえられたはず。第一、アジトはにぎやかな都の中にあったのにどうしてこんな森の奥にいるのだろうか。


「……お前、偽物だろ」

「何ふざけたこと言ってやがるんだ!」

「どうしてそう思ったの?」

「アイツの目には十字線が入ってる。多分、盗みがばれて持ち主と殴り合いでもしたんだろうな。だがこいつには縦の線しかないんだよ」

「へぇ、暗くて見えなかったとか?」

「……」


 目を細めて笑う此のの顔を見て長は舌打ちをする。


「せっかくいい能力もらってんだから、手を抜くのはよくねぇな」

「……ハハハッ、本当に鍵が見つけられると思ってんのかぁ?」


 長がしきりに目を閉じ、もう一度開けると目に鮮やかな赤が見えた。影狼だ。すぐに武器を構えてかかろうとすると、甲高い遠吠えがあたりに響いた。反射的に足を止めて何事かと固まる二人の前に現れたのは、おぼつかない足取りで不気味に近づく人々だった。その誰もが鋭い牙と鮮やかな目を持っている。


「っ……こいつら全員影狼の手下かよ」

「どれくらいいる?」

「ざっと五十人だ」


 ゆっくりと近づいてくる彼らにたじろぎながらも、辰巳は小さな声で話し始めた。


「いいか、あいつらは中心の影狼によって操られる。先にそいつを倒した方が楽だ。俺は影狼をやるから、お前は後ろの人たちを頼む」

「オッケー」

「本気でやらないようにな!」


 二人はその大群の中へ飛び込んでいった。

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