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第二十九句

「ごめんなさい」

「アハハッ!全然来ないね!少ない?」

「お前やっぱり全然見えてねぇじゃん!噂の影狼だ。少ないけど噛まれないようにな!」


 二人は夜が更けた小さな町へ来て、早々に現れた例の影狼たちに対抗していた。辰巳がライフル、此のが細剣(さいけん)だ。


 影狼が最初に狙ったのは辰巳だった。銃ということもあり、遠くから徐々に距離を詰めていかなければいけない。なるべく集団にならないように近づくが、その中で一番遠くにいた者が最初に倒れた。


「辰巳さんサングラス付けてるんだっけ?かっこつけてる?」

「違うよ。こう見えてもこれはスコープになってんだ。遠くの敵もしっかり見える」


 ただ笑っているだけなのに、影狼は辰巳からの殺意を感じる。『遠くにいると殺される』と思いながら素早く前へ行くが、辰巳は思い切って乱射した。


「乱暴だねぇ」

「短気で悪かったな!」


 暴れまわる銃に冷静に対応しながら此のに当たらない角度まで動かし続けた。天つのようにサプレッサーもついていないので、影狼の声など聞こえなかった。


「やったかな?」

「いや、わからない。もうちょっと近くまで言って確認する必要がある」

「うんうん、確かにそうだね!あとは残党もいるかもだし。ほら――」


 細剣を大きく天に向けると、一瞬だけ小さな悲鳴が聞こえた。


「こんな奴とか」


 なんとそこには、影狼が刺さっていたのだ。傷口は小さいのだが、腹を貫通しているので意識は失っているだろう。刃に刺さっているところが灰になったくらいで手を下ろした。


「残党は僕に任せてよ。辰巳さんはサポートお願い!」

「ちょっ……!」


 こちらの話も聞かずに大きく飛ぶと、その衝撃でフードが脱げた。だが、やはり顔は見えない。降りているときに剣を持っていない左手を耳に当てると、何かを感じ取ったようで一直線に落ちた。


「やぁこんにちは!よく残ってたね」


 手をひらひらと動かす此のの前には影狼がいた。此のは前が見えにくい代わりに耳がいいらしい。普通は戸惑うところだが、すぐに攻撃を仕掛けられた。


「さっすが!」


 だが此のも対抗する。細剣を大きく開いている口に噛ませて動きを止めると、それを土台として頭をつかみ、片手で逆立ちをしてから影狼の背中側に降りた。いきなり懐から布を取り出したと思うと、刃を拭き始めた。


「実は僕さ、他の人より力が強くないんだよね。なんで視界が悪くて力が弱くてもここに立ててるって?――それなりの()()をしてるからだよ」


 突如影狼はその場に座った。微かに震えているのがわかる。此がしばらく何もせずにそこへ顔を向けていると、影狼の口から泡が出始めたではないか。朦朧としている影狼が上を見ると、何重にもなっている紙を通り抜けて聞こえる笑い声があった。


「影狼って人の言葉わかるんだっけ?じゃあ教えるよ。僕の剣には毒が塗ってあるんだ。それも結構強力だから、体内に入ったら一発アウトかな。さっき君が僕に襲い掛かってきたとき、剣で押さえたでしょ?君は口で押さえてたんだから入るに決まってるじゃないか」


 苦しむ影狼など気にせず、此のは辰巳のもとへ帰っていく。くるりと振り返ると、さっきよりも低い声でこう言った。


「自分のやったことをちゃんと後悔するんだよ」





「――遅い」

「ごめん!手間取っちゃってさぁ」

「やっぱり紙が原因だろ!外せよ!」


 辰巳は紙の下の部分に手を伸ばした。だが、それを予想していたかのように細剣で止められた。


「大丈夫、カバーはつけてるから」

「……お前は何で顔を見せないんだ」

「だって僕、顔を見られたら……」


 ごくりと唾をのんだ。それと同時に冷たい風が頬に当たって、辰巳を一層怖がらせる。


「――悲しくなる」

「ここでふざけるか……」


 周りを見渡すと、武器をもう一度構えた。


「ここにはいないが、これで終わりとは思えないな。二手に分かれるぞ」

「いや、僕周り見えないから無理」

「周りに人がいなかったら外せるだろ!」

「影狼だって人に変身できる。万が一逃がして顔を見られれば僕と、周りの人にも迷惑がかかるだろう?」

「っ……」


 即答される、そしてどれも理由としては成り立っていたその言葉たちに思わず屈した。ため息をつくと、ライフルを肩に担ぎながら言った。


「わかった。その代わり、まじめにやれよ」


 二人はゆっくりと町はずれへ消えた。

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