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第二十八句

「これは秘密だ」

『扉、ねぇ……』

「多分、影狼の仲間か何かが仕掛けたんだと思う」


 ちはやは帰ってすぐに博士に今までのことを伝えた。


『でも、何のためにしたんだろう』

「それがよくわからないんですよね」


 隣にいた天つが困り声で言う。しばらく周りに沈黙が走ったかと思うと、ちはやが低い声で言い放った。


「僕たちを試すためじゃない?」

「えっ?」

『……説明できるかい?』


 コホンと一つ咳払いをすると、ちはやは腕を組みながら説明を始めた。


「まず、扉を用意したのは僕たちを閉じ込めると考えるのが一番いい。万が一に逃げる方法もなくなって影狼に囲まれたら終わりだもの」

「では、なぜ試したという考え方に?」

「普通、人を閉じ込めるなら鍵は隔離した場所に置いておくよね。相手が絶対探さない場所とか、もしくは鍵をかけた本人が持っているとか。でも、僕が鍵を見つけた場所は()()()()()()()()なんだよ。そんなの倒せたら一発で手に入る。ということは、わざと見つけやすい場所にして相手が僕たちの実力を試したかったからじゃないかな?」

『確かに、それだったら敵がすべて例の影狼だったことも納得できるね』


 天つは何か苦い顔をしていたが、話は続いた。


『またそうなった場合、鍵は影狼が持っていると思うかい?』

「うん、しばらくはそうなると思う。でも、もしかしたらどこかのタイミングで鍵を隠してくるかもしれない」


 あたりがゾッとした雰囲気に包まれた。もし鍵が見つからなかったら、自分たちは帰ってこれないのだろう。電話を切ると部屋に此のと辰巳が入ってきた。


「どうしたんですか?」

「いや、奇妙な事件があったので博士に話していまして」


 二人は事件の詳細を話した。その最中、此のは真剣な表情をしていて辰巳は少し怖がっているようだった。


「それは大変だったね~」

「しばらく仕事行けませんよ……」


 両手をクロスさせて肩を押さえていた辰巳が小声で言った。


「どうしてさ?」

「閉じ込められるなんて怖いに決まってるだろ」

「盗賊のアジトに殴り込みは行けるのに?」

「だからしてません!」

「予定は?」

「ないっ!」


 此のから辰巳へのからかいはよくあることだが、あまりよくは見たことなかったのでちはやと天つは失笑した。





 二日後――


 扉の報告が入ってから休みをはさんで二日が立った。もうすっかり館内で噂になっているようだが、そのおかげか扉の報告はあってもすぐに対処できるようだ。


「もしもし?」

『やぁ此の君。仕事を頼みたいけど、いい?』

「わかりました。辰巳さんとですよね?」


 辰巳も話を聞いていたようで、電話を切ると二人はすぐ準備に取り掛かった。


「よし、いこっか」

「あー、此の?」


 姿見の前まで来たとき、辰巳がもどかしく質問してきた。


「何さ?」

「前から気になってたんだが……その紙は何か意味はあるのか?」


 此のの最大の特徴、それは顔が一切見えないことだ。いつもは上着のフードで隠しているが、脱いでもなんとなくイライラするような表情が印刷された紙が貼られている。百人一魂の不思議の一つだ。


「ただの気分だよ。ほら」


 こんなに気軽に見せてもらえるものなのか。覗き込んだ瞬間、辰巳は腰を抜かしそうになった。


「顔じゃない⁉」

「うん、あと二十枚はあるかな?」


 紙の下からまた紙が出てきた。しかも微妙に表情が違う。普段の気楽そうな性格に反して、そういうところは徹底しているらしい。


「なんでそうするんだ?何か、隠すべきものがあるのか?」


 ピクッとするとしばらく固まり、紙の表情に合うような声色で言った。


「……内緒。じゃ、おっさきー!」


 ひらひら手を振りながら姿見の中へ消えていく此のを、辰巳はまずいという顔で追いかけていった。そしてそれと同時に――ガチャッという音が部屋に響いた。


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