第二十七句
「お断りします」
「あっ!ちはや君いた!」
「ん?あぁ、天つさん」
ぼーっとしながら塀にもたれかかっていたちはやのもとへ天つが走ってきた。
「今日は大丈夫でしたか?」
「うん。いつも最後までうるさいけどなんだか静かだったね」
「いつもより早く終わったんでしょうか?」
「――いや、それは違うと思う」
顎に手を当てながら話を聞いていたちはやは即答した。天つは少し戸惑っている。
「違うって……どういうことですか?」
「多分、何か工夫をしたんだと思う。例えば……天つさん、いつもと違うことはない?」
「えっと……あ、あれ?サプレッサーが取り付けられている……」
いつもポケットに入ってるはずのサプレッサーが銃についていたのだ。少し取り付け方が雑だが、ちゃんと撃てる。
「今日は気を付けたんじゃない?」
ちはやがフッと笑うと、再度銃を見つめた。
「……確かに、頑張ったみたいですね」
二人は姿見の前まで戻った。だが、いつも違う。
「扉……?」
確かに姿見と同じ模様なのだが、いつもはない木製の板が取り付けられており、扉のようになっている。ちはやは金製のドアノブに手をかけた。
「鍵がかかってるみたい。ほら、南京錠がある」
体を扉からどかして、その重そうな南京錠を見せながらドアノブをガチャガチャ言わせた。
「困りましたね……ということは、私たちはその鍵を見つけないとこの世界に閉じ込められる……ということですか」
そこまで言うと二人は背中に悪寒を感じた。さっきまで聞こえていた風の音も聞こえない。それくらい、今まで感じたことのない恐怖が背中に来たのだ。
「まさか……」
さっきまで天つがいた森の中から、こちらをにらんでくる大量の目が見えたのだ。そして先頭にいる影狼の歯が微かに見えたかと思うと、例の紫色の色素が付いているではないか。
「どうしましょうか」
「多分、後ろの奴らも同じだろうね。それならいつもの方法がいいよ」
「わかりました……」
静かに返事をすると、天つは突然その場に腰を下ろした。
「あまり時間は使えませんからね」
「わかってる。でも、前みたいに間違って寝ないようにしてね」
首を縦に振ってうなずくと、綺麗な正座をしたまま目を閉じた。
(さて、まずはこちらへ誘導しないと)
ちはやは急に塀の後ろへ身を隠すと、影狼は茂みからゆっくり出てきた。ちはやはそんなことも気にせず落ち着いている。一歩、また一歩と天つにだんだん近づいてくる影狼が最初からいなかったようだ。そしてあと一メートルほど距離を詰めたとき、大太刀を構えたちはやがいきなり前に現れた。影狼が混乱していると手の叩く音が聞こえた。
『天つ風 雲の通い路 吹きとぢよ』
小声で天つが和歌を唱えると、ちはやは素早く後ろへ回った。そして天つは今までつぶっていた目を強く開けた。その瞬間、影狼は異変に気付いた。体が動かないのだ。心の中では必死に足掻いているのに目を動かすのがやっとだ。何か波動のようなものに捕まっている感触で、それが出ている方を向くと天つがいた。
天つの句能力:視界に入っている者の動きを止める
その目力のなんと強いことか。影狼に劣らず、殺意が十分に感じられる。そんなことを考えていると、上から何か音がした。風になびく――布の音。何とか目を上に動かすと、大太刀を両手で頭の上に構えているちはや。
「ごめんね」
その何とも感情がこもらない声が、最後に聞いた音だった。
「っ……も、もう、終わりましたかっ……?」
苦しそうな声を出す天つに、ちはやは緩く返した。
「うん、もういいよ」
『乙女の通い路 しばしとどめん』
解放されたかのように地へ体を寄せると、目を両手で覆い隠した。
「……はぁーっ。やはりこの能力を使うのは疲れます。目が悪くなるのも時間の問題ですねぇ……」
「そうなの?」
「ドライアイは感染症などをを引き起こすことがあるんですよ。まぁ便利な能力なんですけどね」
話を聞いている最中、ちはやは何かに気づいたようでそそくさとそこへ駆け寄った。
「ねぇ、さっきの扉の鍵ってこれかな?」
――ガチャッ。爽快な音と共に扉の板が消滅し、いつもの錯覚を起こしそうな模様が出てきた。
「良かった。これで帰れますね」
「……」
「ちはや君?」
姿見をくぐるとその前でちはやは考え事をし始めた。
「ねぇ天つさん、なんで鍵がかかってたと思う?」
「えっと、故障でもしたのでしょうか?」
唐突な質問に思考が鈍る。
「鍵があったところって、ちょうど影狼がいたところらへんなんだよね」
「すいません、私あまり覚えてなくて……」
すっかり疲れていた天つは思わず適当に返した。
「なんで影狼は僕たちが扉の存在に気づいたときに出てきたのかな」
「えっ……?」
いつも見てくださりありがとうございます。投稿が遅れてしまいすみません。
皆さんもドライアイには気を付けてください!




