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第二百七十九句

「私と恋をしない?」

 そよから伝えられた場所に行こうと、今は足を進める。風で全く聞こえなかったが案外近くにいたもので驚いた。とりあえず姿見の所にまで戻って左側にあった森のほうまで行くと、急激に風が強くなった気がした。


 強くなった、というよりかは、()()()()()()()()()()()とでも言おうか。徐々に体が引っ張られていく感じがして、巻き上がった葉と共に森の奥へ進んでいった。


 流されるようにして着いたのは、おどろおどろしい雰囲気をした場所だった。せっかく夜闇に目が慣れてきたばかりなのに、視界がしばらく奪われる。見えてきたところで、何かが浮かび上がってきた。人影がある。それも、一人だけではなく二、三人はいるだろう。


 そのうち奥にいる者の大きさには見覚えがあった。恐らくそよだ。そよが何かをしている。一層風が強くなってきたようで、自動的に吸い寄せられたと思うと目の前にあった木へぶつかりそうになって何とか耐えた。


 陰に隠れながら見ると、険しい表情をしているではないか。目線の先を見ると、そこには――黒マントがいる。しかも二人だ。黒マントは引き金を引いており、風のせいかいつもより弾丸が素早く空中を滑っている。何度かすって血が流れていても動かずにいる彼を見ていられなくなり、頭にきて後ろから乱入することにした。


 ちょうど、風で吸い寄せられた枝が何本か見える。適当なものを一本掴んで静かに忍び寄り、首と思われる部分に強く当てると一瞬でこちらに視線が来た。銃口の角度がこちらを向く前に能力を発動させると、元からいなかったように消えていった。


「……来たぞ」

「あ、ありがとうございます」


 何も話すことがないため、しばらく固まっていたが先に話したのは今の方だった。


「俺もあんまり持たねぇ。状況を説明しろ」





 数分前――


 今との無線を切った後、後ろからの物音に気が付いた。後ろを向くと、黒マントが立ち上がっているではないか。しかも後ろにはまったく同じ姿がもう一つある。瞬時に短刀を構えるが、後ろを向いて逃げ始めようとしている。


 焦りを感じながら必死の思いで和歌をとなえる。


『有馬山 猪名の笹原 風吹けば』


 風が止まったと思えば、向かい風に変わった。左手を前に差し出し、手のひらが上を向くようにすると勢いよく手を挙げた。するとどうだろう。今まで拭いていた風がさらに強くなっている。下手したら一歩でも動いたらその方向に飛ばされそうだ。


そよの句能力:体の動きで風速を変える


 黒マントを足止めしてしまおうと思ったのだ。だが、くるりと正面を向いた黒マントの手にはそれぞれ銃が握られていて容赦なく弾を放ってくる。何度もかすってその傷を風が滑る。痛みが増しているが、ここで風を止めてしまうと逃げられるだろう。せめて、今が来るまではと耐え続けた。


 今が来たのはそう思ってすぐのことだ。何か動揺しているが、それでも枝で対処してくれた。と思えば、黒マントがいきなり消えたではないか。その方が何倍も驚き、風を止めた。





「……驚かせてごめんな。これは俺の能力だから、心配すんな」

「いえ、何も理解していなかった僕の落ち度です。で……これからどうすればいいでしょうか」


 二人とも体力はないので、長期戦に持ち込むのは危険だ。何か、策を考えなければ。ひとまず二人は今の能力を使っている間に良い場所はないかと探し始めた。

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