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第二十六句

「真情などありません」

静かな森の中、少し冷たい風、そして、銃声と笑い声――。


「ハハッ!テメェら狼だってのに俺に追いつかれてどーすんだよっ!」


 周りを気にせずに銃を撃ち、大声で敵を挑発している天つは、ここに暮らす動物たちにとってはとても迷惑であった。もちろんサプレッサーは取り外されているので銃声など筒抜けだ。この狂気さにはさすがの影狼も少し引いているようだった。逃げても木々を飛び、越されては撃たれる。隠れても所かまわず乱射して見つかる。もうめちゃくちゃだ。『無限に続くかくれんぼ』と思えるくらいだ。


「せっかく許されたってのにこんなつまらねーことしてたらさぁ、俺が出てきた意味ねぇんだけど」


 ひと段落ついたとき、急に影狼の姿が見当たらなくなった。ちょうど弾丸も切れてしまってつめているとき、急に恐ろしい気配がした。普段からこういうことには慣れている。後ろを向くとただ風に乗って飛んでいく木の葉しか見えなかった。


(気のせいか)


 そんなことを思いながら前を向いたその時だ。


「なっ――」


 黒い影が正面から飛び込んできたではないか。必死に銃を構えたが、まだ装填が終わっていない。後ろに倒れると同時に腕を伸ばして膝で押さえていた影狼の体を振り落とした。綺麗に足から着地すると逃げても捕まらなそうなくらいの距離を取った。


(完全に油断しちまった……)


 歯を食いしばってまずそうな顔をした。影狼はわかっていたのだ、この天つは考えるより先に攻撃を始めることを。確かに何も考えないという点では影狼の考える時間を遮断できるが、その分仕掛けた罠にはまんまとかかってしまう。影狼は、ここで自分たちの頭脳を働かせることを見切っていたのだ。


(あぁ、しくじった。どうせ()()()が怒られるんだろうけどさぁ……)


 さっきまでの爽快な笑顔はなくなっていた。





 天つには二つの顔がある。一人は正直で何でも知っているみんなの先生。もう一人は真情を隠してたくさんの秘密を抱えている。だが決して二重人格というわけではなかった。姿を変えることは本人たちの意思でやっており、互いの性格や考え方などをすべて知っているが記憶は共有されないといった方がわかりやすい。


(今回俺がやらかしたら、きっと二度と戦えなくなる)


 影狼が茂みから続々と出てくる。一斉に攻められたら終わりだろう。慎重に後ろへ下がっていると、ポケットの中に入っていたものが足に当たった。


「これは……」


 取り出すと天つは今までよりも意地悪な笑顔になった。こうなったら、やるしかないのだ。天つは手に持っていたそれをぎゅっと握りしめた。





 影狼が天つを追いかけてから五分は経っただろう。相変わらずの活発さで追いつけなかった。姿を見失ったので仲間と手分けして探していると、いきなり遠くから仲間の悲鳴が聞こえた。周りが全員そっちへ振り向く。すると次は後ろにいた二匹が同時に倒れたではないか。いよいよ怖くなってきたので、一回目線を送って動きを止めた。移動する音が聞こえると思ったのだ。

 ――耳を澄ますと、確かに銃の音が聞こえる。だが、さっきと比べたらとても小さいのでどのくらいの遠さにいるかがわからなかった。


(馬鹿だなぁ)


 天つはその光景を見てにやりと笑っていた。次々と影狼が倒されていく中、ついに失笑した。


「ハハハハハ……」


 影狼は声のした方、()を見上げた。ちょうど近くにあった大木の上にダラっと腰を下ろしている。


「あーあ、バレちゃった。ま、別にいっか!」


 わざと足の音を強調させるように地へ降りると、影狼はようやく状況を理解した。天つの銃にさっきまでなかったサプレッサーが取り付けられていたのだ。どうりで、今までの音が静かだった。影狼は後ろを向いて逃げ出した。


「残念!」


 しばらく木の上にいたため、体力は十分に温存されている。余裕で影狼を追い越し、足でブレーキをかけながら目を合わせると素早く乱射した。灰になっていく影狼を見ることもなく通り過ぎると、深呼吸をしながら服装を整えて、眼鏡をかけた。


(あとは……頼んだ)



「あ……終わってますね。……また乱暴なことをしていないでしょうか」


 独り言をつぶやきながら、ちはやを探した。

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