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第二百六十六句

「感謝してくださいね」

 まだ黒マントはじたばたしていたが、二人がかりで押さえているのだから到底逃げることはできないだろう。難なく川霧の所へ着いたが、大きな違和感があった。後ろにいたはずのもう一人の黒マントがいない。ふみは焦って手を離し、倒れていた川霧を起こそうとした。


「ちょっと、川霧さん、川霧さん!」

「やめてあげて」


 力強い口調に手を引っ込め、目にかかっていた布を外した。乾いた血とはまた別に新しい血が出ているではないか。能力は使ったものの、やはり反動がないわけではない。そのことを察したたびに事情を説明するよう言われた。


 ため息をつき、川霧のそばでしゃがんで目の周りを軽く診た。少し意識を失っているようだが、それほど大きなことではない。問題は逃げた黒マントがどこへ行ったかだ。


(川霧君が能力を使ったのが本当なら、黒マントの動きが急に鈍くなったこともわかる。これは二人に無理をさせてしまった僕の力不足だね)


 ふみに川霧と黒マントを運ぶように頼み、たびは逃げた者を探し始めた。どう探すかは簡単な話だ。意識を飛ばして位置を特定すればよい。全身の力を抜いてその場で倒れると、すうっと抜けて体が軽くなるような感覚で宙に浮き始めた。


 風邪を引いたときのような、全身が軽く麻痺しているような感覚が毎秒走りながら森を探索していく。森の上を半分ほど飛び回ったところで茂みが激しく動いているのが見えた。もっと近づいてみると、激しい息遣いが聞こえる。死に物狂いで逃げていったことがわかった。


 大まかな場所を覚え、自分の体に戻るとすぐに立ち上がって帰るときの道をなぞるように走り始めた。


(黒マントも必死に逃げる時ってあるんだ。まぁでも、僕の仲間を攻撃した以上は見逃せないよねー)


 木を伝り、茂みに突っ込み、がむしゃらになって黒マントの姿を見るために駆けていく。道なりに行くと位置があやふやになりそうあったので、直線的に行った。まもなく音が聞こえるようになった。茂みを必死に踏み分ける音だ。遠回りをしてさらに加速すると、少し遠くで並走していることがわかった。足はもう限界に近いが、それをさらに加速させて先回りした。


 ある低緯度距離が取れたところで木の上に登り、潜んでいるとマントをひらひらをさせてやってきた。だいぶやつれていると取れた。裾は破れているし、走り方はとても不格好だ。すれ違った瞬間に木から飛び降りると、穂先をその頬にかすらせながら背中に乗って両足をそろえて強く蹴り落とした。


 貫通した穂を体に引き付けると、フードが大きく破れた。すぐにうつ伏せに倒れた黒マントのもとへ向かい、押さえつけた。川霧の服と同じ柄の布で縛られているので、間違いないだろう。拘束をほどくのは時間がなかったようで、両手と口は拘束されたままだった。


 そこへさらに足の拘束を追加しようと後ろを向いたが、かかとがトントンと三回鳴らされた。先ほどと同じ景色がよみがえる。転倒しそうになったところをすぐに受け身を取って上半身を起こすと、井戸から微かに出ている裾を引っ張って止めた。


 全体重が下に向かっているので、体がすぐに引っ張られる。石の壁だけを頼りに支えて精一杯引いた。せっかくのチャンスなのに、逃してしまってはいけない。一度引っ張られる力が軽くなったかと思いきや、黒マントは上半身を起こして壁の縁に手をかけた。足を大きく動かしてたびの顎を蹴り上げたのだ。


 たまらず手を離してしまい、みるみるうちに井戸へ吸い込まれてしまった。顎の痛みとひどいめまいが治ったころには、森は静かになっていた。暗い表情のまま無線を取り出し、ふみへ伝達をする。


「ごめん、黒マント逃がしちゃった。そっちはどう?」


 だが、返答はとんでもないものだった。

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