第二百六十二句
「自分の行いを恥じるよ」
蔦がちぎれた反動によってふみは強く手をついて倒れ、痛そうな表情を浮かべていた。
「ふみちゃ――」
「危ない!」
心配する暇も与えさせず、黒マントは銃口を近づけようとしてくる。小回りを利かせて酔えたが、あまりにも範囲が狭いので離れざるを得なかった。痛そうにしているふみのことが頭の片隅から離れないせいか、全然戦いに集中できない。次々に来た弾幕全てから逃れるのに、どれほど苦労したことだろうか。たちまちかすり傷が多くできて風が吹いてくるたびに痛みが増した。
今動けるのはたびだけだ。目くばせをして、ふみにはなるべく気絶中の黒マントの近くにいてほしいと顎で指示を出す。時間はかかったが何とかくみ取ってくれたようで、腰辺りを押さえながらゆっくりと近くに寄っていった。川霧も引きずって側に寄せていた。
この状況で一番厄介なのは井戸を使われてもう一人のいるところまで移動されることだ。なんとしてでも黒マントの存在を知られずに追い詰めたい。こちらを向いている今が絶好のチャンスだと感じ、森の奥へと走っていった。まんまとそれに引っ掛かって追いかけては来るが、やはり銃と言うリーチのある武器を持っているとあまり遠くまでは行ってくれない。
だが、それに気づかずに進んでしまったもので人が四人くらい仰向けになったときくらいの距離が空いてしまった。間合いから離れている限り圧倒的に黒マントの方が有利だ。限界が見えてきた体力の中でも、たびは居場所をくらますために走った。先ほど、黒マントが高速で木々をすり抜けたかのように。あまりうまく入っておらず、自分が通ったところにぴったりくっつくように弾丸が埋め込まれていくようになっている。
止まることが許されなくなってしばらくすると、とうとう追いつかれて平行移動になった。横の距離を空け、極限まで届かないようにする。マガジンをかえる時の音は一瞬しかせず、連射が途切れるタイミングは当てにならない。
大きく遠回りをして、ようやく最初の位置と真反対に来るとそのまま正面から接近していった。
ふみは困り顔をしてたびと黒マントが戦っている方を見た。絶えない発砲音が鳴り響いており、どのタイミングで撃たれていてもおかしくない。いてもたってもいられなくなったので、近くにいた川霧の服を引っ張って森の入り口に一番近いところへ移動させた。
「ちょっ、何するんだよ!」
「僕はあなたに能力を使いました。これはあなたへの貸しですから、返してもらわないと」
子供じみた言い方に呆れもしたが、何をするかはおおよそ見当がついている。ふみは川霧に銃を構えさせると、その後ろに仁王立ちをして言い放った。
「良いですか?これから僕があなたの目になります。僕が言った方向に連射してください」
「俺片手しか使えねぇんだけど……」
川霧の銃は大きいため、両手で押さえる方が反動を分散できる。ふみが後ろから目を塞いでいる布を押さえると、さっそく前を向いて指示を出し始めた。
「もう少し左に……行き過ぎですよ。そこです」
(本当に大丈夫なのかよ……)
あまりにすぐ終わったので、どんな位置にしたのかがあまり読めない。そんなことは気にせず、勢い良く言い放った。
「今です!」
言われるがままに打つと、肩を持たれて左右に動かした。まるで遠隔操作をするロボットのようだ。左右に手が動かされるのと共に弾道の範囲は広まっていく。
「これ大丈夫なのか?」
「僕を信じてください!」
普段と違ってやけに自信のある様子だ。だが、それほどたびを助けたいのが分かる。その意思が強いのならきっと助けられるだろう。そう思うと真っ暗なはずの目の前に森が現れたような気がしてくる。
「お前、正面に黒マントかなんか見えるか?」
「はい。肉眼で見えるか見えないかくらいの手前ですけどね」
「方向は?」
「そのまま直線です」
「それなら集中攻撃の方がいいな」
舌を出して集中する姿勢に入ると、真正面よりも少しずれたところへ銃口を定めて引き金を引いた。




