第二百四十九句
「あぁ、なんでそんなことを……」
最大でも気絶させるだけだ。分かっている。だが、視界を塞がれているとはいえ戦闘をするうえでは耳も重要な場所だ。よく肥えているに違いない。川霧は足場に障害物がないことを幸運に思いながら近づいた。
まずは耳元に当たるか当たらないかくらいの位置に銃口を持ってきて一発放つ。鋭い発砲音がすれ違って驚かない者などいないだろう。すぐに体勢が崩れ、同時に目の前であちらも銃を構えてきた。
相当焦っている様子で連射していたので当たるはずがないだろう。低い姿勢を取って進むと、あっという間に間合いへ入って腹を殴った。かすれた声をあげるとともに体制を崩し、すっかり怖じ気づいてそこへ座り込んでいた。井戸を出される可能性があるかもしれないので素早く口と両手を服の袖を破いて縛った。半袖で長さはあまりないものの、縛ることを最優先にしてなんとか動きを封じることができた。
しばらく様子を見て、また新たに井戸を出す方法があったら報告しようと身構えていた。だが、一向に動こうとしないのでしびれを切らしてこのまま姿見まで移動させてやろうと考えた。だがその前に、口の縛り方がどうにも心配になってきたので一度外して結び直そうとする。どうしても抵抗しそうな黒マントを見ると、顔を覗き込んで言った。
「なぁ、抵抗するなよ」
一見、からかっているような感じではあるがその赤く光っている目が従わなかったらどうしてしまおうかを物語っている。黒マントは顔が見えないので一瞬何が起こったのかわからなかったが、やがて声にも伝わってきた恐怖が自然と黙らせていた。さらに息苦しくなるような縛り方をしてから一応たびにしらせようと無線を入れた。
「あの、黒マントを捕まえたんですけど……運んでおきます」
静かに戦闘をしていたらとんだ邪魔者になってしまう。恐る恐る話してすぐに無線を切ったが
、予想に反して返事はすぐに帰ってきた。
『はいはーい。大丈夫?一人で運べる?』
動揺で無線を落としそうになったが、何とか拾って話を進めた。
「えっと……できたら数人の方がいいと、思います」
あちらも忙しいのだから、無理にとは言えない。自信のないように言うがたびのテンションは変わらなかった。
『じゃあそっちにふみちゃん派遣しとくね~』
『「えっ⁉」』
無線越しにふみの声が聞こえた。応援に来てくれることはうれしいが、まさか先ほどまで喧嘩していた者とだなんて。たびの企みに違いないだろう。なぜかと問う暇もなく話が進まり、集合場所を指定されて話は終わった。
嵐が過ぎ去ったような感覚がしてならない。集合場所は今いるところ。それにしても、「海の近く」「月が正面で見える」なんて抽象的な指示でよかったのだろうか。これは長くなりそうだ、と、黒マントの横で寝そべって空を見つめた。
「なんで僕が……」
不機嫌そうにそう言ったふみは、わざと大きな足音を立てるように砂浜を歩いた。森の中からはあまり見えていなかったが、こうして見ると本当に綺麗な海だ。月明かりが反射した水面と足音が消えてその雰囲気を崩さずにいてくれる砂浜のせいで、止まっている時の中で一人だけ歩いているように思える。
(いっそ、このまま時が止まって入ればいいのに)
そうも思ったが、あまり遅くいってしまうと川霧からもたびからも怒られてしまう。そんなことを思って走り始めた。海を見たときに、月が真正面から見えるところにいると言っていた。ずっと海の方を向いて走ると、いきなり足元の砂が下に沈んでいった。
慌てて身を引くと、井戸が出てきたではないか。ふみの武器は弓矢だ。接近戦には持ち込みたくないので敵が現れないうちに後ろに回って弓を引いて待っていると、確かに黒マントが出てきたがものすごい速度で体を回転させてこちらに向いてきた。
ものすごい速さで連射してきて、ふみはこの時点でかすり傷ができている。表情は次第に曇っていった。




