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第二百四十六句

「私は人の助けなどいりません」

 元より百人一魂は人ではない。だが、ロボットやアンドロイドともまた違う。はっきりと言い表せる言葉はないが、近いものでいうなれば『人工人間』だろう。彼らの体に埋め込まれたマイクロチップには肉眼では見えないほどの小さな粒子が何兆個にもわたって入っており、好きなタイミングで武器を出したりしまったりすることができる。


 たびが、武器を加えた影狼に対して行ったのはそれだった。何個もの粒子がマイクロチップからの強い磁気で吸い寄せられて戻り、再びたびの手の中で形成される。だが、そんなことも知らない影狼たちはただただ驚くことしかできなかった。


「残念、武器は僕たちの一部みたいなものだから、操作できるんだよ」


 一部みたい、と言うよりかは本当に一部なのだ。舌を出した軽い挑発にまんまと引っ掛かった影狼はたびに突進したが、軽やかな動きで避けられてしまう。後ろを取られたところでふみの矢が跳んできて思わず前へ体を移動させた。そこへ槍の柄が頭に当たりそうになる。一度はしゃがんで回避したものの一回転させることで穂先で追撃をして見事頭に当てられた。


 粒子と言えど、槍は固く影狼はしばらくの間視界が揺らぐ。そこを見逃さず、体に刃を貫いてあっけなく戦いを終わらせた。


「大丈夫でしたか?」


 すぐにふみが駆け寄ってきたので、笑いながらうなずいた。すると、奥の方からまた大量の気配が向かってきていることに気づく。再び弓を構えたが、たびはそれを止めて来たときと逆方向に逃げるように言った。


 訳の分からずに走っていたが、後ろを向いたときに微かに聞こえた発砲音。しかも連射している。速度からして、フルオート式だろうか。


(黒マント⁉それなら早く行かないと……でも……)


 必死に逃げ続けるたびの姿を見て、本当に大丈夫かと心配になりながらもその後へ付いて行った。


 姿見の目の前まで着き、急ブレーキをかけると二人は地面に倒れそうなほど息が切れていた。落ち着いてからずっと聞きたかったことを問う。


「あの、黒マントがいたのに、なんで退散したんですか……?」

「黒マント?あぁ、違うよ」


 黒マント以外に、フルオート式の銃を持っている者などいない。だが、しばらくして、一つの可能性が浮かび上がった。


「まさか……川霧さん?」

「正解。そっか、ふみちゃんは川霧君と仕事したことないもんね」


 確かによく考えれば、銃口を引いた後の音が長かった。普通よりも装填数が多い、黒マントとは異なる型の銃だ。たび曰く、戦いの邪魔をしたくなかったらしい。だが、こんなにも一目散に逃げるようなことではないだろう。ため息をついて森の入り口を見つめる。


 はるか遠くから聞こえる発砲音は戦いが激化していることをこちらに伝えている。


(あの人が戦っているって思うと、なんか変な気持ちだな)


 戦いに集中せねばと首を振ると、ふと月明かりに影が差した。海の方からだ。二人同時に顔をそちらに向けると、いきなりふみの顔に弾丸がかすった。じんわりと熱くなっていき、頬からは血が流れる。腰を抜かしそうになるのを何とか耐えると、戦闘隊形をつくるために後ろへ下がった。


 もうこの音には十分慣れた。本物の黒マントだ。海に近い木の頂上からこちらを見つめている。ひとまず、たびとの接近戦を持ちかけるために弓矢を放って近づけようとした。だが、潮風の影響だからか矢が思うようにうまく飛ばない。ようやく届いたものはというと当たる気配すらなかった。


 ここでたびに怪我をしてもらうわけにはいかない。意を決して武器をしまうと、木に登ってすぐに他へ移るというのを繰り返した。目標の木が見え、ギリギリになりながらも枝を掴むとなるべく先端へ移動させ、何回かその上でジャンプすると一気に跳ね上がった。


 目標はもう見えている。だが、上を向いた瞬間には、額へ銃口が当たっていた。

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