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第二百四十四句

「夫の名前なんて、嫌ですわ」

 たびは勢いよく槍を突き出し、体全体を覆ってきそうな影狼たちを容赦なく倒していった。その後ろでは、たびの後ろに行った影狼をふみが処理している。いつも共に時間を過ごしていることが多いからか、無言のコンビネーションは完璧だった。


 槍はリートが非常に長く、ある程度の間合いも取れる。普段の雰囲気とは大きく異なる素早い動きは、何回も一緒に仕事をしているふみでさえまだ慣れていない光景だった。前方にいる影狼の腹を突き刺すとともに、後方から弧を描くように連なった何匹かが飛び掛かってくる。それでもためらわずに上半身のひねりを利かせると、下に出ていた柄が当たってまとめて打たれた。


 血を払っている間にもう何匹かが後ろで何かをしている。どうやら近くにあった木へ登っているようだ。上から狙うつもりだろう。だが、それは遠くの木に身を潜めていたふみが見逃さなかった。瞳孔を開いてよく目を凝らし、枝の分かれ方をよく見る。葉しかない場所に焦点が合うとそこだけに注目した。まもなくそこへ不自然な黒い影がかかる。その時に事前に弓へつがえ、引いていた矢を放った。小弓は体が大きくない人でも使える弓だ。枝からの邪魔が入ってきにくいので、その分力強く引けた。


 気を飛び出した矢はあっという間にその狭い範囲へ入ると、影狼の首を貫いて木から真っ逆さまに落とした。何が起こったかわからない仲間たちは、それを気にして前へ踏み出してくる。そこへすかさずもう一本の矢を放ってもう一度同じことをした。


「たびさん、場所を変えた方がいいかもしれません。木の後ろだと影狼に隠れられます」

『了解』


 微妙な距離ではあるが、無線を使って連絡を取り合った。援護をしているふみの居場所を特定されてしまっては同時に攻撃をされてしまう可能性がある。決して叫べない状況だ。たびに何かがあっても冷静に援護ができるように、常に気を引き締めていた。


 影狼の量は多いが、少なくしてしまえばこちらのものだ。たびの作戦が功を成して後から応援に来る影狼もいない。逃げようとしている数匹を追いかけているときだった。ふみもそれに合わせて木々を移動し、影狼を睨んでいる仲間の背中を見ていた。


 柔らかくも、近づけない。どこか上品な風格を持つ大きな背中だ。いつも話しかけてくるときとは違うが、魅入ってしまうものがある。どう近づくかで影狼の動きは変わってくる。ひとまず、先頭にいるものの動きに合わせて矢じりを構えた。細かく位置を変えてくるので、再び合わせるのに遅れてしまう。


 おそらくだが、影狼はふみの存在に気づいているのだろう。これだとうまく援護できない。それでも、少しでも役に立とうと後ろの影狼へ目を向けた。


(よし、動いていなさそうだな)


 当たりやすくするために体勢を変え、右手を大きく後ろへ引く。爽快な弦音が森に響いた。後ろの影狼へ見事命中し、灰になっていった。地面に突き刺さった矢を見ていた影狼の目線が戻らない間に、たびは静かに接近して大きく穂を振りかざす。一突きして終わらせようと思ったが、影狼の反射神経には通用しなかった。


 いつもより変形速度が桁違いに速い。そうして人の姿になった影狼は手の平で穂を握り、そのまま止めた。なんと強い力だろう。何もできないことがわかるとたびは柄から手を離した。今まであった強い力がいきなり亡くなったことで体勢が崩れる。そこへ畳みかけるように蹴りを入れるとひとたまりもなく倒れた。武器を回収しようと手を伸ばしたが、まだ残っていたものに咥えられた。届かない距離まで離れられる。


 だが、決して焦ってはいなかった。よく見ると穂の方から塵のように消えていっているではないか。


「残念、武器は僕たちの一部みたいなものだから、操作できるんだよ」


 舌を出し、明らかにこちらを挑発しているような表情だ。うまく乗った影狼は武器を再び手にしたたびへ突進していった。

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