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第二百四十三句

「俺は悪くない!」

 姿見をくぐった先には、二つの大陸をつなぐ橋のように連なった島があった。少し歩いただけでも海岸が見えてそこからはいつもより大きくて輝いている月がこちらを覗いている。暗く、風が吹いている森の中をしばらく三人で歩いていたが、急に川霧がスピードを上げてずっと遠くへ走り去ってしまった。


「悪ぃな!俺はこんなゆっくりしてられないんだよ!」


 去り際にそんなことを言っていた。すぐにふみが一歩踏み出すが、すかさずたびが肩を持って止めた。


「いいの。川霧君には自分のやり方があるから」


 不服そうな顔をしたが、素直にたびの言葉へ従う。その後は言葉を交わすこともなく、ただ前にある道をひたすら歩いていった。いつまで経っても現れない影狼たちに怒りさえも感じたが、たびの冷静な様子を見ては自分の短気さを恥じて進んでいく。 


 歩くのが疲れてきた。だが、ここで座ったらもう立ち上がれない気がした。それでも、休憩くらいはあってもいいだろうという気持ちで淡々と前を行くその背中へ向かって言い放った。


「たびさん、あの、僕足が疲れちゃって……」

「じゃあ、ここらへんで休もっか」


 正直否定される可能性の方が高いと感じていたが、笑顔でうなずいてくれた。ほっとするのと共にちょうど側にあった木へもたれかかりながら体をほぐした。足が棒のようになっていて膝を曲げるのにも慎重になる。ある程度体操を済ませたところで柔らかい声が耳に入った。


 「川霧君って」なんて言い出しをされたものだから、思わず仏頂面になってたびを見てしまった。だが、それとは対照的にたびの顔はどこか儚げでその時に吹いた風と一緒に飛ばされてしまいそうだった。


「川霧君って本当にすごいと思う」

「え?」


 予想外の内容に変な声が出る。あんな奴にすごい要素なんてあるだろうか、それは言いすぎか、と頭の中で自問自答を繰り返しながら必死になっていると、それが顔にも出ていたのか笑われてしまった。そしてこう言葉を続ける。


「あの子、いろんなことを諦めないでやってるでしょ?僕だったら絶対にできないなぁって」

「……確かに」


 その諦めの悪さは変なところに出てしまっているが、どれほど言われようと諦めない姿勢というのは確かに感心するべきところだと思う。歩き出したたびの背中を追いかけるために少しだけ駆け足になる。背中からも機嫌のよさが分かる。


 たびは武器である槍を出し、穂の状態を確かめながら先ほどの話を再開した。


「なんか、人が相手に対してイライラするときって、自分ができることができていないからなんだって。だからそれができる自分をもっと誇ってもいいって言ってるんだけど……」

「さっきから、何の話を?」

「でも逆にさ?相手がやったことに感心しちゃうってことは自分がそれをできないからなんじゃないかって思うんだよね。だから僕は、できる限り他人がした良いことを真似しようと思っているんだよね」


 穂先がこちらを向いた。刺されるのかもしれないと思って一瞬身を引いたが、目線をたどるともう少し遠くの方へある。


「さて、なんで僕は今まで歩いてばっかりだったんでしょーか?」

(影狼を探すため?――いや、違う)


 後ろを向くと、森を覆いつくさんとばかりの赤い目がこちらを覗いている。急いで武器の小弓を取り出すものの、恐怖で前には行けない。


「影狼を……おびき寄せる……ため?」

「正解。じゃあ、こっからは戦闘モードで行くよ」





 川霧はもう少し先に進んだところで一度足を止めた。思ったより遠くへ来てしまっただろうか。買えるのが大変になりそうだったが、自由に行動できると思うと楽しみの方が勝って来た。優雅に口笛なんて吹きながらまた先へ進むと、ある光景に足を止めた。


 何人もの人が木にもたれかかり、輪のようになっている。それが、いくつかの木に分けており何個もあった。まるで何かの儀式が執り行われているようだ。


(気味が悪ぃな……。何かの風習?いや、もしかして……)


 突然後ろから聞こえた足音へ、一気に背筋が凍った。

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