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第二百四十二句

「貴女しか考えられない」

 ふしは普段と違う服装をしていた。カーディガンはなく、ワイシャツを肘までまくっている。大人びている雰囲気と相まってとても似合っている。


「君、大丈夫だった?私の連れが不快な思いをさせてしまったね」

「は、はい……!大丈夫です!」


 みるみる女子高生の頬が赤くなっていく。青年は苦い顔をしながらそれを見ていた。話が終わったのか手を振って見送るとふしは呆れた顔で両腕を組んで青年の目の前へ立った。


「もうしないように」

「すいませーん」


通称:川霧(かわぎり)

管理番号:064

主:藤原定頼(ふじわらのさだより)


 どうやら川霧という名で、百人一魂の一人だったらしい。話が終わったことを悟った川霧は両手を後頭部で組んで館の方へ進んでいった。 ふしは心配そうにその背中を見ると、目的地へ行く前に携帯を取り出して誰かへ電話をかけたようだった。





 帰ってきて早々に川霧を迎え入れたのは、笑いながらも鬼の形相をした小夜だった。顔のすぐ横にある壁へ手をつかれ、迫力のあまり腰を抜かしそうになった。もう一方の手には携帯を握っていてそこから微かに声が聞こえていた。


『ということなのですか、報告しても良かったのでしょうか……?』

「はい……、誠にありがとうございました……」


 震える声で礼を言ってから電話を切ると、血走った目の瞳孔をゆっくりと合わせてきた。


「川霧……?公共の方に迷惑をかけたようだな……?」

(ダレカタスケテ……)


 そんなことを思っても、誰も助けに来てはくれないだろう。なぜならそれが自業自得だということを知っているからだ。


「さ、さーせんしたぁ……」


 高鳴る心拍数、体中から滴ってくすぐったくも感じる汗。その中で振り絞って出た言葉がこれだった。小夜は用があったため釈放されたが、足が全く動かずしばらくその場で座っていた。それを見ていたたびが近づいてきて目線を合わせる。


「だいじょーぶだった?」

「これが大丈夫に見えますか?」


 すっかり怖気づいた様子へ一つため息をつくと、頬杖をついて話し始めた。


「君の主も、たくさんの女性と付き合ってきたみたいだね。その影響があるのもわかるけど決して自分勝手なわけじゃないはずだ。一回、考えてみてね」


 見た目に合わない真剣な言葉だ。だが、小夜の言い方よりは内容が分かった。


「怒ってくれる人がいるうちは、君には可能性があるってこと。ふみちゃんもそう思うでしょ?」


 後ろからついてきていたふみは川霧をしばらくじっと見つめると、苦い顔をして答えた。


「もっと身長があったら成功していたんじゃないですか?」

「~っ、マジで許さねぇからな!」


 にらみ合いが始まり、間に挟まれているたびは深くため息をついた。この二人は犬猿の仲として有名だ。なんでも主絡みだとか。ふみの身長は川霧よりも少し低いくらいだ。だが、川霧は女子高生と比べても明らかに差を感じるほど低かった。


 コンプレックスを指摘されて何も感じない者などいるだろうか。取っ組み合いが始まりそうになったところでたびの携帯がバイブレーションし始めて着信画面をタップすると耳と肩に挟んで通話を始めた。


「もしもーし」

「だーかーらー俺の身長は低くない!」

「そういう頑固なところがいけないんじゃないんですか⁉」

『たび……君 気? ちょっ……頼みたくて……』


 二人の声がうるさくて電話の内容が良く聞こえない。「ちょっと待ってくださいね」と言ってから二人に近づき、頭へ盛大なげんこつを食らわせると両者は膝から崩れ落ちていった。


「ちょ~っと静かにできないかなぁ?」

「「すいません」」


 博士との会話に戻る。どうやら仕事を頼みたいらしく、今回は人数を増やしてみたいとのことだ。ちょうどたびの後ろには二人いる。三人でどうだろうかと言うと快く承諾してくれた。


『今回はちょっと目的を変えたい。黒マントには井戸を出す方法がいくつかあった。だから、そこをなるべく塞いでほしいんだ』

「小夜さんが言っていたものですね」


 電話を切ると、真剣な目をしながら二人へ仕事のことを伝えた。どちらも受け入れていたものの、目を離された瞬間に互いを睨み合っていたとか。

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