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第二十三句

「お断りいたします」

「やっぱり、ものってその時々で違った美しさがあるからいいよね。その移り変わりが面白い」

「そうですか?(わたくし)はちはや君と違って、自分が今好きだと思える瞬間だけを残しておきたいと思っていますよ」


 午後三時、ちはやと天つはものの美しさについて語り合っていた。


(どうしよう、何の話か全くついていけないよ……)


 その間には、海人がちょこんと座っていて、二人の話に挟まれながらも落ち着かない時間を過ごしていた。


 話し合いが盛り上がってきたころ、扉の開く音がした。


「ただいま帰りました~!」


通称:しのぶ

管理番号:014

主:源融(みなもとのとおる)


「ただいま」


通称:(ゆき)

管理番号:015

主:光孝天皇(こうこうてんのう)


 やってきたのは、乱れ模様のメンズスカートが印象的なしのぶと、今の季節に合わないようなマフラーやコートをしている雪だった。


「そっか、二人とも今日は買い物してたんだね」

「そうなの!僕の庭園づくりに役立ちそうなもの買ったんだ!」


 しのぶが手に持っていた大きな袋を床に置くと、周りに一瞬だけ強い風が吹いた。そしてそこにいる者全員が、彼の体力に驚いた。


「確かに、この館の端にある庭園はしのぶさんが管理されていますよね。ここからも見えるのでどう変わっていくのか、楽しみです」


 彼らが暮らす館の領地は広く、各々が自分の好きなように使っている。特にしのぶは、大の美しい物好きであることから自分で和風な庭園をつくっていた。


「雪さんは少なめだね」

「まぁ、そんなに買うものもなかったからね」

「雪さん、荷物持ちますよって何回も言ったのに断ってくるんですよ」

「いや、しのぶ君はそれ以上持たなくて正解だったと思いますよ……」


 海人がその楽しそうな風景を見ながらお茶を飲んでいると、机の上にある電話が鳴った。


「はい、海人です」

『やあ。仕事を頼みたいんだけど、今、誰か見える?』


 買い物袋周辺にいる四人以外が見えないのを確認すると、いつも通り丁寧に返した。


「ちはやさん、天つさん、しのぶさん、雪さんがいます。でも、しのぶさんと雪さんは買い物から帰ってきたばかりなので疲れてると思います」

「海人君は行けそう?」


 海人は迷った。そして、博士にあることを聞いてみた。


「あのぉ、影狼が発見された場所の近くに()()ってありますかね……」

『井戸?……あぁ、なるほど。えっと、ちょっと待ってね』


 話の意味を理解した博士は、手元のキーボードをカタカタと打った。電話越しでもはっきりと聞こえるその音が止んだと思うと、博士の声が再度聞こえた。


『あったよ。今回はお預けだね』

「すいません、僕が変な運を持ってるせいで……」


 海人は井戸があるとそこによく落ちるという謎の運を持っていた。幸い、額にかすり傷ができるだけなのでいつも絆創膏を貼っている。治ってもすぐに落ちるので、こうやって確認しないと仕事に支障が出るかもしれない。これは彼なりの気づかいだ。


「じゃあ、ちはやさんと天つさんに伝えておきますね」

『助かるよ。じゃあ、よろしくね』


 電話を切ると楽しそうにしのぶの購入品を見ている二人の肩をたたいた。


「お二人とも、仕事が入ったんですけど大丈夫ですか?」

「うん、今なら大丈夫」

「私も問題ないです」


 二人は軽く会釈をすると、片付け始めたしのぶから爽やかな笑顔が返ってきた。さっそく、準備に取り掛かるようだ。




 少し肌寒いが、湿気の多い三日月の夜。姿見の中に入るとちはやと天つは他の百人一魂の話になった。


「やっぱりしのぶ君は主の影響もあっていい容貌をしているね」

「えぇ、なんていったって彼の主はあの『源氏物語』の光源氏のモデルになっていると言われていますからね」

「僕も負けないようにしないと……」

「負ける?」

「僕もしのぶ君くらいの容貌になれたらって意味」


 自分の何を改善すべきかなんて独り言をしているちはやに、天つは少し黙ってこう答えた。


「ちはや君も、人のことは言えないと思いますけどね」

「なんでさ?」

「だって、あなたの主は年齢や身分を問わずに数多の人を愛し、愛されてきたお方なのですから」


 二人でそろって月を見つめた。ちはやはそれを見て微笑むと、天つに失笑しながら言った。


「今日は()()()()()()()()

「もちろん、今日は控えます」


 その時、すでに塀の後ろに潜んでいる影狼は気づかれていた。

館の周辺にも井戸はありますが、みんなが協力して海人を極力近づけないようにしています。

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