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第二百四十一句

「そんなこと言われても傷つきませんよ」

「だーかーら!私のせいです!」

「あーっ!今謝りましたね⁉聞きました?あれほどダメって言ったのに!」


 戦いの後とは思えないほど元気に小競り合いをしている小夜と八重を、誰も止めることはできなかった。それよりも、それに挟まれている博士が気の毒に感じる。


『助けて、たび君』

「え~、そのままでいいんじゃないですかぁ?」


 ソファに座っていたたびに助けを求めるが、動こうともしていない。それと対照的に(いま)は舌打ちをしながら自室へ戻っていった。


『そういえば、何か新しいことはわかった?』


 その一言で先ほどまでの言い合いが嘘だったかのように静かになり、顔を合わせると小夜が掴んだ情報を話し始めた。


「はい。黒マントは通常、指を鳴らして井戸を出現させます」

「でもそれだけじゃなかったんです。彼らは声でも井戸を出せる」

『声は覚えているかい?』


 声を覚えていれば特定の時間が一気に減らせたのだろう。だが生憎、彼らの声は意味の分からないものだった。率直な感想を述べると博士は長いこと電話越しにうなり声をあげながら考えていた。『脳内に直接内容が入ってくるようだった』なんて言われてもわかるはずがない。しばらく経ってから出た答えは、意外なものだった。


『なるほどね。もしかしたら、他にもそういう合図があるかもしれない』

「他の……合図?」

『うん、例えば瞬きだったり、膝を曲げるだったり、細かい動作までその合図だとしたら相当厄介なことになる。だから拘束するときはできるだけ動けないようにしないといけないね』


 傍から見たら、結構残酷な事を言っていると感じるかもしれない。だが、目的も分からずに人を巻き込んでいく影狼たちが許せるだろうか。その発言にためらうことはなく話は着々と進んでいった。


 このことは、博士自らが他の百人一魂にも伝えてくれるらしい。お礼をすると電話を切って大きく息をついた。ずいぶんと中途半端な時間に帰ってきてしまった。夕食まで寝ようと考えたが、八重が肩を叩いてきたので自室に向かう足を止めた。


「はい、どうぞ」


 八重から渡されたのは彼岸花の押し花だった。淡く深い紅を放つ花弁が閉じ込められている。光に透かして見るとどこか懐かしい雰囲気を感じた。


「くれるのか?」

「はい、栞にでも使ってください」


 別れた後、部屋に入ると机に置かれていた本へそれを挟んだ。表紙には、『日記』と記されている。だが、その字は印刷された明朝体で、何やら文庫本のようだ。小夜ではない、誰かの日記だ。布団へ大胆にダイブして枕に顔をうずめると、小夜はそのまま寝てしまった。





 数日後――


 ソファに座って携帯をいじっていたたびの膝の上には、同じ雰囲気を纏った少年が座っていた。目がきりっとしているが、全体的にはか弱い印象だ。


「君の身長はいいねぇ~」

「え、そうですか?」


通称:ふみ

管理番号:060

主:小式部内侍(こしきぶのないし)


 突然の言葉に動揺していたが、たびはこう続けた。


「僕の顎を乗せるのにちょうどいいよ」

「お役に立てて何よりです」


 二人で顔を見合っていると、いきなり携帯の画面が着信画面に切り替わった。





 山のふもとにある商店街では、制服を着た女子高生たちに話しかけている青年がいた。短髪に少しサイズの大きいTシャツ、その下にはボーダー柄のインナーを着て使い古されているのが分かるスニーカーを履いている。


「ねぇねぇそこのお姉さんたち。俺と今からどっかいかない?」

「え、ちょっとそれは……」

「べつにいいじゃーん、ね?あっちのカフェとかどう?」


 女子高生の手を引いた瞬間だった。青年の手首を掴む、大きな手があった。後ろで少しだけ結われている長髪にすらっとした体形。落ち着いた雰囲気の顔立ち。それは、青年が何回も見たことのある人物だった。


「だめだよ」

「あっ、ふしさん⁉」


 管理番号019のふしだ。ふしは青年をそっちのけに話を進めていった。

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