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第二百四十句

「そんなこと、言わないで頂戴」

 互いに一歩も譲らない。八重と黒マントは片時も目線を外すことなく銃撃戦を続けていた。装填の時に来る一瞬の隙を使えればいいのだが、撃つスピードと装填数がほとんど同じなのでどうしようもない。だからと言って黒マントの後ろへ潜んでいる小夜を早く出しても抵抗されるだけだ。何か、決定的な隙が必要だった。減ってゆく体力を時々植物を使って回復させ、気づかれないほどに近づいていく。


(ごめんね、後で絶対に返すから!)


 目の前に来た弾を素早くかわしながら逃げていく。その道を追うように相手の弾は地面へめり込んでいった。一応抵抗として撃ってはいるが、微動だにしない足とは真逆のように小回りの利いた動きで、見ているこちらの肝が冷えるくらいにギリギリのところで避けてくる。本当だったらもう少し急所に近いところを狙った方が良いのかもしれない。だが、百人一魂のルールがそれを躊躇させた。


 かばんの中のマガジンも指で数えられるほどにまで減ってしまった。このまま撃ち合いを続けていればすぐに弾切れになってしまう。一度銃口を下げ、なるべく姿勢をかがませると地面を勢いよく蹴って前へ走り出した。すかさず黒マントは引き金を引いたままにし、八重の体にまんべんなく当たるように連射した。


 所々にかすり、血が出てきているが気にしている暇はない。後ろで待機していた小夜と目を合わせると、間合いに入った瞬間二人で前後からとびかかった。八重が銃口を押さえ、自分の顔に当たらない角度へずらしてから腹に蹴りを入れる。すかさず小夜も短刀で浅い切り傷をいくつかつくり、動きを遅らせた後に首筋へ手刀を当てた。


 前後からの同時攻撃には対応しきれなかったようで、その場で膝から崩れ落ちた。これで、正真正銘こちらの勝ちだ。両手を縛って井戸を出さないように対策をとると、立つように指示した。だが、一向に立とうとしない。小夜は怒りを感じて強い口調で言い放った。


「まだ負けを認められないか、卑怯者」


 だが、それは違ったようだ。息を大きく吸うのが聞こえると、いつの間にか井戸が現れていた。


『来い』


 確かにそう言っていたはずだが、どんな声かと言われれば言い難かった。女性とも受け取れるし、男性と言われればそう聞こえる。年齢も、よくわからない声色だった。と言うよりかは、声はなく脳内に直接内容を流し込まれたようだ。


 井戸に吸い込まれそうになっていた八重の体を何とか引っ張って上げると、あっという間に井戸は消えてもう一方の黒マントがいる方へ移った。井戸からは今井戸へ入っていった者の手だけが見えて必死に裾を引っ張って井戸へ引き込んでいった。


彼奴等(あいつら)……!」


 小夜が短刀を握りしめて飛び出そうとしたが、八重が袖をぎゅっと握って離さなかった。


「小夜さん、もう大丈夫です。僕たちはまた新しい情報を手に入れたんですから」


 その真剣な目を見ると、黒マントたちへの戦意は消え去っていた。





 姿見まではもう少し距離がある。ゆっくりと歩いて着くと、八重は地面へ手を当てた。


「僕に養分を分けてくれて、ありがとう」


 自らの体力を養分へ還元し、植物に与えるとすっかり元気になって風にそよいでいた。どこか嬉しそうにも感じる。姿見へ入ろうとする八重を止めると、小夜は目を合わせて深々と頭を下げた。


「今回の失態は、全て私の不注意だ。本当に――」

「――だめです」


 遮った言葉の意味を聞こうと顔を上げると、突然額へ少しだけチクッと痛みが走った。デコピンをされてしまったのだ。両手で額を押さえると、楽しそうに笑いながらこう言った。


「貴方はとってもいいことをしたのに、なんで謝るんですか?」

「……だが、黒マントを逃がしたのは私だ」

「うーん、確かにそれもありますけど、その自信のなさも原因だったんじゃないんですか?」


 風が吹いて顔がよく見えるようになった。先ほどまで寒いと思っていたが、爽やかに感じられる。


「もっと自分を信じてください。そうすれば、黒マントだって捕まえられますよ」


 いつもよりも大人びている言葉やしぐさに、小夜は微笑みながらうなずいた。

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