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第二百三十六句

「本当に良いのですか?」

 小夜の体は勝手に動き、自身の肩を掴んでいた八重に化けた影狼の首元に短刀の刃を入れていく。綺麗に首がはねられた影狼は元の姿に変形してから灰になり、消え去っていった。一気に力を抜き、不格好な位置に手が来ても決してそこから動こうとはしなかった。


『かたぶくまでの 月を見しかな』


 能力により、反射神経が鍛えられたことがわかる。八重を助けにいきたいという気持ちもあったが、体勢をうつ伏せに変えたところで頭突きでのめまいが再発してすぐには動けなかった。





(あ、小夜さん、僕を倒したんだ)


 自分が倒されたと思うと変な感じがして仕方がない。そう思って八重は目の前にいる小夜に化けた影狼へ目を向けた。いつも感じ取る優しくも気品がある雰囲気はどこへやら、強い圧と冷酷な目をがあるばかりだった。遠距離武器なので比較的有利だが、普通の影狼でも避けるのは速いので何をされるかはわからない。


 人の体を使っているのだ。狼の姿よりもはるかにできることが多い。なるべく距離を詰められぬよう、あちらが一歩前へ行ったら後ろへ行くという動き方を選んだ。距離は一定だ。このまま一気に接近すれば動揺して攻撃が遅れるに違いないだろう。隙が出た瞬間に飛び出そうと甘えたが、いきなり体の角度を変えて走ってきた。必死にそれへ対応して後ろを向き、相手の様子をうかがいながら離れていく。


「止まれ!」


 突如、小夜の声が聞こえてきた。何事かと思って前を向いたときにはもう遅い。正面から小川に飛び込みそうになったところを何とか不運張り、わずかに足裏に触れていた地面を蹴って飛び越えた。飛び込む形で川岸に着いたところで焦りながら顔だけ後ろに振り向かせ、その勢いを使って銃を構える。


 器用に木へ登ってこちらへ飛び込んできそうな影狼へ連射してからその着地点を予測し、無理やりでも体をずらして何とか強打は防げた。だが、ギリギリの位置にいたため衝撃が伝わってきた。座っているところから立ち直るのは難しい。姿勢はそのままに小回りを利かせて避けながら連射をする。だが、それはあちらも同じだ。


 大きい体と狼の姿を行き来することによって混乱させながらもうまく避けている。弾が亡くなっていき、銃身の軽さを感じたときは『絶望』した。だが、後ろにまた影が見える。いったん銃をしまい、間をあまりとらずに来る爪を素早く避けながら少し遠くに見える森に行くほどに走った。足に草の先端が刺さる感覚が何度もして、くすぐったくもかゆくなっている。


 だが、まだ攻撃をするにはタイミングが早いだろう。先ほどの不自然な動きに警戒をしている影狼からしばらく逃げ回った。


(このままだとやられちゃう!……間に合うといいんだけどな)


 息が切れ、肺に空気が入らない。手も足も動かすことができず、もう限界だ。後ろを向いて位置を確認する時間なんてない。急いで銃を取り出し、かばんを漁って奥の方に新しいマガジンを見つけた。古いものを足元に落として入れ替えたと同時に月明かりを覆う影が後ろへ見えた。


 上半身を思いっきり腰のひねりを使って回転させ、その勢いで右手を伸ばして何回も引き金を引いた。だが、焦っているのが指先にも伝わったのか弾道がどれも乱れている。ついにはもう弾切れになって影狼は大きな口を開いてきた。


(――そっか、失敗しちゃったんだ)


 その時だ。もう一段上へ影がかかった。影狼にも劣らぬ鋭い目をしているそれは両手に短刀を持ち、目線は影狼の首元にある。空中だが、体を大胆に一回転させてから短刀を振り回すとそこから血が飛び散った。真下にいる八重にもかからない速さと正確さだ。


 うごかなくなった影狼の体と一緒に着地した小夜は、刀身についた血を払って前を見た。


「大丈夫だったか?」

「すいません、間に合わなくて……」


 最初から小夜は八重を追う影狼を追いかけており、八重は小夜が動き出せるタイミングを見計らっていたのだ。

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