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第二百三十四句

「よいですか?」

 先に銃を拾ったのは小夜だった。急いでいたからか、奥側あった黒マントの銃を握ったがどうせ同じ銃なので、どちらを拾っても変わらないだろう。底なし沼に大事なものを落としたかのように瞬時にしゃがみ込んで手を伸ばした小夜は、苦しそうにしながらも起き上がっていた。


 上半身を起こした黒マントは残っていた小夜の銃を取り、立ち上がることはせずに小夜へ上目遣いに構えた。同じようにして、互いの額へ銃口が来るようにする。小夜は少し遠くからでもわかるほど大きく息切れしており、この距離からの攻撃は避けられそうにない。警戒心が最大限になっている二人は周りが無音に感じていた。


 そこへ、風が吹いた。八重のかばんに入っていた彼岸花の花びらが巻き上がり、二人を世界から分断するかの如く囲む。一枚が視界に入ってきたとき、小夜の瞳孔は小さくなって引き金に指を当てた。黒マントもそれを見て全身の力を引き金へ集中させる。風が止んで花びらは回りながら地面へ落ちていった。だが、もう聞きなれた発砲音もせず、弾が飛び出してくることはなかった。第一、引き金を引いた手ごたえがないほど軽いのだ。疑って何回も引いてみたが、やはりそうだ。この銃には()()()()()()()()


「騙されてくれてよかったよ」


 そう言って着物の懐を引っ張ったと思うと、そこからマガジンが落ちてきた。地面に当たるとともに鳴るプラスチック音はどこか重厚感がある。確かに小夜は銃を取り出すとき、少しだけ手間取っていた。その時に抜き取ったのだろう。


「掴まれたときに気づかれるとも思ったんだが、さすがにあの状況だと焦るよな」

「さすがですね!」


 後ろで説明を聞いていた八重も目をキラキラ輝かせてそう言っていた。黒マントが手を伸ばした先にあったつかい途中のマガジンを踏んで装填を遮ってから再度額へ銃口を当てる。後方にいた八重も、適当な場所へ狙いを定めていた。これで、黒マントがどう動いてもこちらが有利だ。


「抵抗さえしなければ私たちは何もしない。ついてきてくれるか?」


 われながら悪役のような言い方だ。顔を下に向けたかと思うと、銃を離した手で――指を鳴らした。爽快な音はもう彼らにとって地獄の音。黒マントはその下から飛び出てきた井戸へ入っていった。静か射なったと思いきや、そこから大量の影狼が飛び出してきて四方八方へ散っていく。処理が追い付かず見逃してしまったが、小夜にはまだ何か残っていたようだ。


「八重!私が捕まえた黒マントはまだいるな?」

「……はい、まだ起きてません!」


 影狼が完全に消え、また静かになったところですぐにもう一方の黒マントへ駆け寄っておぶった。全体重が預けられているのである程度の重さはあるが、動けはする。八重がバッグの中身をすべて回収し終わったことを確認すると、感覚的に影狼の多い方へ歩き始めた。


 相手は焦って仲間の回収をし忘れている。意識を失っているうちは動けないので、再び井戸を使ってくる可能性が高い。そこを捕まえるという作戦だ。だが、何も行動を起こさないとすぐに見つかってしまうので散らばった影狼たちを先に倒してしまおうとこうやって歩いている。


 時間はわからないが、夜はまだ長い。何か一つでも新しい情報を手に入れなければと真剣になっているとさっそく影狼が現れた。見える範囲に黒マントを寝かせてから二人は武器を構えると一目散に逃げ始めた。八重が一直線に撃っているところを飛び越え、そのまま木の高さくらいにまで跳ぶとあっという間に影狼の前まで来た。当たらないように八重は近づきなからマガジンを取り換える。


 小夜が短刀を構えたところで影狼はどこまでも続く遠吠えをすると、次々と隠れていた別の影狼たちが顔を出してきた。どんどんと数を増やしていき、二人はいつしか囲まれていた。

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