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第二百三十二句

「今日も綺麗ですね」

「あ、八重です!さっきはお返事返せなくてごめんなさい。こっちも黒マントを一人捕まえたので、姿見の前集合でどうですか?」

『わかった。私もよく考えずに無線をして悪かった』


 まさか謝られるとは思っていなかったので、焦りながら返答をして姿見へ向かった。手を拘束しながら前に行くように指示したが、驚くほど従順になっていたので怖くなってしまった。銃は一応こちらで回収してあるのですぐにはとれないと思うが、油断させたところで攻撃というのもありえなくはない。一層気を引き締めて歩いていった。


 後ろからの攻撃がないように黒マントの後方へぴったりとくっついていた。方向を指示してあっという間に入ったときにあった風景が見えてきた。そして、あの禍々しい渦を浮かび上がらせている姿見を発見した。すでに小夜は姿見の前で待機しており、その右手にはぬいぐるみのように全身の力が抜けた黒マントがいた。


「小夜さーん!」

「大丈夫だったか?」


 黒マントも仲間のそんな様子には驚いたのか、小夜と五メートルほどの間隔の所で止まった。


「あの……これって……」

「あぁ、黒マントか?動かれると面倒だからな、拘束している間に腹へ一発入れたらこの様だ」


 あまりの力技に八重も引きそうになったが、しばらく目覚めそうにないので実質二対一だ。二人は同時に、立っている黒マントへ目を向けて武器を出して睨んだ。緊張が手を掴んでいる八重にも伝わってくる。姿見が入ってからも何をされるかはわからないが、武器もない状態での逆転は難しそうに見えた。


 

 姿見へ入るように催促すると一歩、また一歩と、悔しそうにするでもなくゆっくりと近づいていく。渦の前まで来た時、急に足を止めて顔を少しだけ横に向けた。


「あれ、どうしたの――」

(まさか……!)

「下がれ!」


 小夜が気付いたときにはすでに手遅れだった。黒マントは土を勢いよく蹴るとともに膝を曲げ、後ろへ突き出したのだ。当然、後ろにいた八重の体は蹴られる。体力は人並み以上にあるものの、体の大きさは小学校高学年ほどだ。容易に飛ばされてしまう。


 そのまま尻餅をついて立ち上がれずにいたところへ黒マントは大きな手を伸ばしてきたが、狙っていたのは八重のバッグだった。半ば強引にひったくって中身を乱暴に取り出すと、中からは大量の押し花たちと玩具の懐中電灯、そして、黒マントが使っている銃だ。中身を戻すなんて丁寧なことはせず、銃を目の前で構えて二人を交互に見ていた。


 よく見れば手は震えているが、緊張だけで動きが鈍くなる集団ではない。八重と作戦を考えようとそちらを向いたが、完全に目の輝きを失って呼吸を荒くしていた。


「八重……」

「小夜さん、僕が前線に行きます」

「だが……私の武器での援護は難しいぞ」

「あれ以上、僕の大事な収集を傷つけられて(たま)るか」


 小夜はこの目を知っていた。一時期、麓の商店街にある花屋の花を毎日のように見に行っていた。だがある日、帰ってきたと思ったらその表情は今までに見たことのないほどの暗い顔をしていた。どうやら店先にある花へ故意に踏まれた跡があったらしい。


 あの時の八重は必死だった。花を修復するために何度も工夫を繰り返したり、許可を取って店の手伝いをしたりと、倒れそうになった時もあったが自分なりに頑張っていた。


『現実でも、能力が使えたらいいのになぁ……』


 そう弱音を吐いていたのを覚えている。もう彼にはそんなことを言わせたくない。そんな思いからか、自然と黒マントの後ろへ回りこんでいた。短刀を顔の横へ突き出して注意を引いている間に、正面で険しい顔をしていた八重の銃から弾丸が飛び出した。互いの位置は事前に確認してあるので両端からの攻撃ができる。


 相手はフルオート式を活用し、二人に向けて連射してきた。後ろ側にいる小夜の方へ体を向けてきたのは絶好の機会だろう。八重は怒りで軽く感じた足を動かし、一瞬で黒マントへ近づいた。

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